ひとつ前の当ブログで、『地の果てまで』(1953 久松静児監督)を取り上げ、池部良さん演じる貧乏学生が質屋を殺すということを書きました。

もうお分かりですね。この映画は、ドストエフスキーさんの『罪と罰』を新藤兼人さんが日本に置き換えて脚本を書いたのです。原作では、主人公ラスコーリニコフが高利貸の老婆を殺しますが、こちらで池部良さんが殺すのは強欲な質屋・上田吉二郎さんです。池部さん演じる大学生は、上田さんから品物を卸してもらい路上に並べて売るアルバイトをしています。冒頭、炎天下でこのバイトをしていると、「馬がひく荷車」が動かなくなり、馬主のおやじが「役に立たないものは叩き殺せばいいんだ!」という言葉を発するのが物語のテーマを象徴しています。

池部さんは学友の根上淳さんと汚いアパートでルームシェアしていますが、金がないのでおかずが買えず、ご飯に塩をパラパラふりかけて食べています。栄養失調目前という感じで「何のために学問をやっているんだ……食うものも食わず、頭に知識を詰め込んだ頃には死んでしまうだろう……」などと絶望的な会話を交わします。根上さんも同じバイトをしていますが、猛スピードで走る車に商品を吹っ飛ばされいくつかダメにしてしまいます。上田吉二郎さんの所へ謝りに行きますが、上田さんは許してくれません。罵倒し、弁償しろ!と怒鳴りつけます。根上さんは落ち込み、その夜、自殺してしまいます。

もう一人の学友・高松英郎さんは結核を病んでいて、当時出たての「ストレプトマイシン」があれば良くなるのですが、1回5000円もするので買えません。日に日に弱っていく友人のために池部さんは大学で使っている本を上田さんの質屋に持ち込みますが、一笑にふされます。「学生の命なんだ! 命を削って学んでいる僕たちには本当に大切なものなんだ!」と懇願しますが、上田さん「学問で食えるのかい? 今の世の中、情に訴えるようなママゴトは通用しないんだ!」と池部さんを突き飛ばし追い返すのです。上田さんの憎々しい演技はさすがのもので、こりゃあ殺されても無理もないと思ってしまうほどです。

池部さんの田舎から母親(浦辺粂子さん)と妹(木村三津子さん)が訪ねてきます。「お前、痩せたんじゃないか……」と心配する浦辺さん、妹に縁談があることを伝えます。相手は土地の有力者ですが女性問題を起こした過去があります。「妹をもらえれば、お前の学費は出してやるっておっしゃるんだよ……いい話だろ」という浦辺さんに、妹が本当に好き合っている恋人がいることを知っている池部さんは「やめてくれ! オレは自分の体をしゃぶって学問を続けているんだ! 妹までしゃぶって大学を続けられるか!」と叫んで出ていきます。このセリフも印象的です。

この映画は1953年(昭和28年)公開です。まだ戦争の傷跡が残り、時代の大きな変化の中、貧富の差が開き、上田さんのような金の亡者もいたのでしょう。しかし、この時代から70年も経っても、教育に関して収入による格差、地方格差が厳然と存在し、それを「身の丈」と言って容認、助長する大臣がいたのです。教育の機会均等を否定するような発言、完全に憲法違反だぞ。こんなことを言うハギューダ光一、今ものうのうと裏金をガメて議員を続けていることが信じられません。コケにされた受験生、国民はもっと怒っていいはずです! (ジャッピー!編集長)