ひとつ前の当ブログで、4年前の2020年に「文京シビックホール」で観た「第93回キネマ旬報ベストテン表彰式」のことを書きました。

監督作の『火口のふたり』(2019 荒井晴彦監督)がベストワンに輝いた荒井晴彦さんですが、監督賞は若松プロの後輩・白石和彌さん、脚本賞はかつて『大鹿村騒動記』(2011 阪本順治監督)を脚本共作した阪本順治さんと、後輩ふたりにさらわれました。特に、荒井さんの本業である「脚本賞」が獲れなかったことが悔しかったらしく、阪本さんに「脚本の書き方を教えてもらおうかな」と冗談まじり圧をかけていました。

そして、今回の「第97回キネマ旬報ベストテン」で阪本順治監督はまた脚本賞を獲りました。対象作の『せかいのおきく』(2023 阪本順治監督)は見事、ベストワンにも輝きました。2月18日(日)、「オーチャードホール」で行われた授賞式では、マイクの前に立った阪本監督、開口一番「今年のベストワンと脚本賞は本当は『花腐し』です。と言うように荒井晴彦さんに言われました」という冗談は4年前の授賞式の続きみたいでニヤリとさせられました。ちなみに『花腐し』(2023 荒井晴彦監督)はベストテン6位でした。

『せかいのおきく』は、江戸時代の長屋を舞台に糞尿を汲んで「下肥」として売ることを生業とする青年(寛一郎さん、池松壮亮さん)が主人公です。モノクロ(一部カラー)、スタンダード・サイズの地味でささやかな映画ですが、環境問題も盛り込みながら市井に生きる者の姿を描き、じんわりと心に残るものでした。

僕はこの映画を昨年(2023年)ゴールデンウイークに観たのですが、「糞尿」が映し出されるのでカラーを避けてモノクロにしたのかな?と思っていたのですが、阪本監督は「そうではなく、モノクロ、スタンダードに憧れていたから」と理由を述べていました。(そういえば、章仕立ての『せかいのおきく』は章が変わるときにカラーになって、ちゃんと?「糞尿」も映ります)

また、脚本について「プロの脚本家に比べて”甘い”と思います。しかし、脚本と監督が別人格ではないので、カット割りなどを考えながら書く利点がありますね」ということをおっしゃっていました。何でも、4年前に15分のパイロット版を作っていて、「物語の最後」から書いて長編にふくらませたとのこと。良いシーンが書けたと思っても、「これ、最後につながらないなあ」と思って捨てたシーンもあるそうです。

糞尿の「汲み取り」という題材をやった人はあまりいないと思うので「自信を持って」獲ったとおっしゃり、当初は何と「江戸のウンコ」というタイトルをつけていたそうです。(この項、続く)(ジャッピー!編集長)