このところの当ブログで、5年前の2019年2月10日に観に行った「第92回キネマ旬報ベストテン表彰式」(受賞対象は2018年作品)のレポートを書いています。

その翌年の2020年、「第93回キネマ旬報ベストテン表彰式」が同じ「文京シビックホール」で行われ、僕はこれも観に行きました。このとき、日本映画1位に輝いたのは『火口のふたり』(2019 荒井晴彦監督)です。荒井晴彦さんが編集長をつとめる「映画芸術」誌も当然ながら?1位なのですが、今年は何と、2位の『半世界』(2019 阪本順治監督)、3位『宮本から君へ』(2019 真利子哲也監督)も同じでした。「キネマ旬報」と「映画芸術」の両誌のベスト3が全く同じというのは史上初ではないでしょうか。正統と異端のボーダーがなくなったのか、ある意味、すべてが一種のカウンターになったのか、良いのか悪いのかよく分かりませんが、このベスト3になった3作は、どれもアナログ的な手ざわりを持った作品という印象があります。皆が下を向いてスマホの画面をいじっている時代が求めているのかもしれません。

式は「作品賞」に輝いた『火口のふたり』に対して、荒井晴彦さんへの表彰から始まりました。スピーチを求められた荒井さん、「神代辰巳と組んだ『赫い髪の女』が1979年の4位、翌年前田陽一さんの『神様のくれた赤ん坊』も4位、次の1981年、根岸とやった『遠雷』が2位……」と、ご自分が脚本を書きベストテンに入った作品を延々と列挙し始めました。何も見ないで挙げて公開年度と順位を正確にずらずら挙げていく記憶力がすごい! と同時に、『遠雷』(1981 根岸吉太郎監督)は「1位を狙いに行ったら、子どもを使ったモノクロ映画に負けた……」(←『泥の河』(1981 小栗康平監督)のことですね)とか、「澤井信一郎と組んだ1984年の『Wの悲劇』は伊丹十三の『お葬式』に負けた」など、ところどころに「惜しかった」結果をはさみながらスピーチを続け、荒井さんけっこう「キネマ旬報ベストテン」を気にしていたんだなあと思いました。

そして、一通り、作品を挙げていって「もう俺の作風ではキネ旬1位は獲れないと思っていたら、今回獲れて、ようやく映画を作る人の仲間になれたかなと思う」とおっっしゃいました。あれ、憎まれ口もきかず荒井さんらしくないなあと思っていたら、今回、「ベスト1」は獲ったものの、「監督賞」「脚本賞」といった個人賞を逃したことが悔しかったのか、「どちらの賞も獲れなかったので……監督賞の白石和彌と脚本賞の阪本順治に教えてもらって、またこの式に呼ばれるよう頑張ります」とかましてくれました。

荒井晴彦さんの「ホメ殺し」に名指しされたお二人は苦笑い。この後、受賞に立った白石和彌監督(若松プロ出身。荒井さんの後輩ですね)は「いつも荒井さんと吞みに行くと、お前の作品はダメだと言われまくっているし……僕が一昨年撮った『止められるか、俺たちを』なんか「映画芸術」でワースト1ですよ! 今年の『ひとよ』だってワースト3位だし……」と恐縮しきり。阪本順治監督も「今日このあと、荒井さんに新宿の酒場に呼び出されている」と笑いを誘いながら登場。池脇千鶴さんの助演女優賞受賞について「女性を撮ることに定評がある阪本監督は……」と話を振られると「いやいや、荒井さんの前で偉そうなことは……」と言ったり「何か、斜め後ろが気になるなあ……」とスピーチの最中もしきりに気にされておりました。荒井さんの圧力を感じながら、なごやかに笑いをとっていた阪本順治監督さすが関西人です。最後に「尊敬する監督は野村克也さんです!」と言ったのもキマっていました。)この日、ノムさんは亡くなり、そのニュースが伝わっていたのです) (ジャッピー!編集長)