このところの当ブログで、「丹下左膳」の映画化にまつわる話を書いています。

左手では殺陣ができないと右腕一本にした丹波哲郎さん、あまりにユルいキャラクターにして原作者の林不忌さんを怒らせた山中貞雄監督、幻の企画となった菅原文太さん……などについて書きましたが、「丹下左膳」には何と女性が演じた作品があります。『女左膳 濡れ燕片手斬り』(1969 安田公義監督)で、主演は安田道代さん(現在、大楠道代さん)です。安田さんが演じたヒロインの名前は「お錦」ですが、隻眼隻手、左手一本で刀を振るうのでまさに女左膳であります。安田さんは右利きなので、左の殺陣のために撮影前に猛特訓したそうです。

「濡れ燕」という名刀を差し出さなかったため藩主に父親を殺され、自身も右眼と右腕を斬られてしまったお錦を、そんな経緯を知らずただ藩主の命令で「濡れ燕」を奪おうとするのが本郷功次郎さんです。さらにこの藩主(小池朝雄さん)が悪い奴で老中の座を狙うという陰謀も絡んだりします。老中の座を射止めるために、絶大な権限を持つ僧正に献上されかけた娘をお錦が救う場面では、敵の男たちに囲まれても父の形見の剣でバッサバッサと斬り捨てていく姿が決まっています。

ただ、本郷さんは凄腕の青年剣士で、お錦危うし!という場面には浪人風の剣客がどこからともなく助っ人として登場します。演じているのが長門勇さんで、この人らしくユーモラスなキャラなので、この辺は『緋牡丹博徒』シリーズ(1968~1972)における熊虎親分(若山富三郎さん)の影響があるかもしれません。この長門さんの意外な正体も明かされ、最後は悪玉は一掃される痛快時代劇ですが、やはり女性が立ち廻りをして、しかも不具者ということで、どうしても観る者には倒錯的なエロスを感じさせてしまう部分があると思います。

そもそも、浅草とかでやっていた女剣劇(浅香光代さんが有名)なども、立ち廻りの際に裾がチラッとまくれたりというエロチシズムが人気を集めた一要素だったと言われていますから、おそらく大映上層部にもそういった狙いがあったのではないかと思います。

シリーズ化されることもなく1本で終わった「女左膳」の次に安田さんが主演したのは、劇画が原作の『笹笛お紋』(1969 田中徳三監督)で、着流しの女左膳に対してこちらは裾をからげて短い股引?を露出したいわゆる股旅スタイルです。ほとんど当時はやったミニ・スカートという感じで明らかに男性観客狙いでしょう。

たしか、テレビでも大信田礼子さんがそんな恰好で脚線美を売りにした『旅がらす くれないお仙』という時代劇がありましたし、当ブログ2月21日に取り上げた『素浪人月影兵庫』『素浪人花山大吉』にも、ミニ・スカート風の着物を着てゴーゴーを踊る女子が出てきた記憶があります。1960年代末から70年代初頭の時代風俗を反映していたのです。(ジャッピー!編集長)