ひとつ前の当ブログで、『破れ太鼓』(1949 木下惠介監督)の中で、木下惠介監督の実弟で作曲家の木下忠司さんが出演していることに触れました。そのことについて、当ブログ2022年2月10日に「木下忠司さんが出演『破れ太鼓』とスタンドインの『わが恋せし乙女』」を以下に再録します。

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ひとつ前の当ブログの続きです。

『破れ太鼓』(1949 木下惠介監督)は、独裁的な親父(阪東妻三郎さん)に抑圧されていた息子たちが反抗するというホームドラマですが、明らかに家父長制度の封建制に対して、民主的な新しい時代がノーを突き付けているというメッセージが読み取れます。そういう意味では、ふたつ前の当ブログで取り上げた『永遠の人』(1961 木下惠介監督)と通底するものがあります。

さて、この『破れ太鼓』の冒頭、♪朝から夜まで~鳴り通し みんなも今では怖くない~ドンドンドンドコ~ドンドドン~ という主題歌を唄いながらピアノの弾く指の動きがタイトルバックに重なるのですが、これが木下忠司さんその人なのです。何と、この映画では、作曲家志望の次男の役で出演しているのです! 

まだ一人前でなく実家にパラサイトしている設定で、阪妻さん、母親役の村瀬幸子さん、長男役の森雅之さんなど名優の中でも動ぜず、素人ながら飄々とした演技でいい味を出しています。妻や長男に背かれ、会社も倒産してしまい打ちひしがれる阪妻さんを気づかい、木下忠司さん演じる次男がこの曲をピアノで弾き、阪妻さんが若い頃の苦労を回想するシーンなど素晴らしかったのです!

こうして『破れ太鼓』に音楽担当ばかりでなく「役者」として出演した木下忠司さんは、実はそれより前にも木下作品に出演しています、と言っても、乗馬シーンの吹き替え出演です。『わが恋せし乙女』(1946 木下惠介監督)で、映画の舞台が牧場のため、頻繁に乗馬シーンが出てくるのですが、原保美さん演じる主人公が原野を馬で疾駆する場面(もちろんロングショット)などは木下忠司さんがつとめているそうです。忠司さんは召集されたとき、騎兵隊に配属されて馬術の達人だったのです。

そして、この『わが恋せし乙女』が忠司さんの映画音楽デビュー作となりました。復員したものの仕事がなく落ち込んでいた忠司さんに兄の木下惠介さんがサトウ・ハチローさんの詩を渡して曲をつけさせたのが切っ掛けとなりました。その「青春牧場」が『わが恋せし乙女』の主題歌になり、以後は木下恵介監督の全作(長唄、義太夫を用いた『楢山節考』1958を除く)で音楽を担当して兄の作品を支えたのです。

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次のブログに続きます。(ジャッピー!編集長)