このところの当ブログで、1946年、戦争による中断から復活した「キネマ旬報ベストテン」で第1位になった『大曾根家の朝』(1946 木下惠介監督)について書いています。

既に書いたように、この映画では夫を亡くし4人の子どもと暮す杉村春子さんの家に叔父の小沢栄太郎さんが何やかんやと介入し君臨します。次男は絵が好きで美術学校に行きたいのに戦地に送られ命を落とします。軍人の叔父の言いなりになっていた杉村春子さんがついに怒りを爆発させるのは、戦争や男性優位社会に耐えていた全ての女性たちを代弁しているようでした。

この映画と似たような構造の作品が『破れ太鼓』(1949 木下惠介監督)です。こちらの専制君主は、阪東妻三郎さんが演じる父親で、土方からの叩き上げで建設会社の社長まで成り上がった人物です。「軍平」という名前が表すように、帝国軍人のままのイメージです。会社でも部下の意見は全く聞きません。当然、家でも自分の決めたこと以外は許さないという暴君ぶりです。まさに「独裁者」という感じです。そういえば、この阪妻さん演じる軍平は社員たちにやたらと演説をぶつのですが、その最中、高揚してくると右手をあげるのがヒットラーみたいです。おそらく観客にそれを意識させる演出でしょう。

会社の借金のために、長女(小林トシ子さん)は軍平に結婚を押し付けられたり、次男は音楽好きで作曲家志望であるところなど、設定が『大曾根家の朝』によく似ています。ちなみに、次男を演じるのは木下惠介監督の実弟で作曲家の木下忠司さんで、劇中ピアノを弾きながら主題曲「破れ太鼓の歌」を歌います。こちらはホーム・コメディということもあり、『大曾根家の朝』の小沢栄太郎さんと違って、軍平はまだ「憎めない」ところもありますが、それでも自分の価値観を押し付ける旧弊な人間であることに変わりはありません。妻(村瀬幸子さん)は出て行き、子どもたちは父親に反旗を翻し、さらに会社も倒産してしまい、父親はひとりになってしまいます。

タイトルの「破れ太鼓」はまさにドンドコ威勢よく太鼓を叩いていた(=戦争を遂行していた)男性至上社会がついに「破れて」新しい時代が到来したことを表しています。その中心にあるのが女性の権利が拡大し、主張し始めたことが『大曾根家の朝』、『わが青春に悔いなし』、この『破れ太鼓』と観ていくと分かります。この当時、これらの映画を観ていた方々が、それから70年経っても、まさか衆議院の女性議員比率が10%だとか、ジェンダー・ギャップ指数が146か国の中で120位、政治分野では138位の国になっているとは思ってもなかったでしょうね。(ジャッピー!編集長)