ひとつ前の当ブログで、戦後すぐの昭和21年の映画『大曾根家の朝』(1946 木下惠介監督)を取り上げました。

この映画で、戦前~戦中に母子家庭に君臨する叔父(小沢栄太郎さん)に対し、戦後、ついに母親が怒りをぶちまけます。自分の娘は叔父の利権目当てに婚約を破棄され、3人の息子のうち2人は戦死です。そんな理不尽にも黙らざるを得ない時代が終わったことを表すような「日本をメチャクチャにしたのはあなたたちのような軍人だ。出て行きなさい!」と杉村春子さんが言い放つシーンはとても感動的です。この小沢さん演じる叔父は「敗戦」をいち早く知ると、軍需物資をネコババするような悪辣な人間です。普段エラそうなこと言っていて「ネコババ」するって、今どこかの国で起こっていますね。

この『大曾根家の朝』は、この年の「キネマ旬報ベストテン」の第1位となりました。「キネマ旬報ベストテン」は戦争で中断していて4年ぶりの発表でした。そして続く第2位が『わが青春に悔いなし』(1946 黒澤明監督)です。この映画も、戦争が終わって「主張」できる女性が登場します。演じるのは原節子さんです。

『わが青春に悔いなし』で、原節子さんは大河内伝次郎さんの娘の役です。大河内さん演じる大学教授はリベラルな考えで、軍国主義体制の中、大学を追放されてしまいます。これは戦前、京都大学の滝川教授が追放処分をうけた「滝川事件」をモデルにしています。

原節子さんを慕う学生が2人いて、藤田進さん演じる学生は大河内教授の教えに共鳴し反戦活動をしています。もう一人、河野秋武さん演じる学生は優秀だけど自分の信念というものがない男です。要するに「長いものに巻かれる」タイプで時流になびきます。原さんは当然、藤田さんの方に惹かれますが、藤田さんは特高に検挙され獄死してしまいます。河野さんの方は要領よく世渡りして「検事」に出世し、取り締まる方になっています。

原節子さんはそんな河野さんの求婚になびかず、「非国民」扱いされて村八分にされている藤田さんの実家に行き、農作業を手伝います。村人たちの差別的な視線をものともせず、原さんは鍬をふるい泥だらけになって働きます。このシーン、本当に感動したなあ。

ここで描かれるのは、自分の理念も信条もなく、ただ時流にのって強いものにひっつくような男への軽蔑を表明し、逆に自分の信念を貫く強さを持つ女性像です。『大曾根家の朝』の杉村春子さんのように、ここにも「戦後」に自由を獲得した女性の息吹が感じられます。ちなみに『わが青春に悔いなし』では、杉村春子さんは藤田さんの母親役を演じます。

共に久板栄二郎さんの脚本による『大曾根家の朝』と『わが青春に悔いなし』が昭和21年キネマ旬報ベストテンで2トップというのは、それまで虐げられていた女性への眼差しが評価されたのでしょう。そして初めて女性参政権も得るわけです。いかに、ここまで来るのが大変だったか、「声」をあげなかったカミカワ陽子は先達の方たちに申し訳ないと思うべきです。(ジャッピー!編集長)