ふたつ前の当ブログに、戦時中「エノケン」こと榎本健一さんが舞台でアドリブを飛ばしたことを咎めた「検閲官」に楯突いた話を書きました。

現在放送中の朝ドラ『ブギウギ』はもう戦後に入っています。福来スズ子(趣里さん)のモデル、笠置シヅ子さんが榎本さんと共演し、コメディエンヌとしても活躍するわけですが、生瀬勝久さんが扮するのは「タナケン」こと棚橋健二という役です。このように、誰がモデルなのかすぐ分かるのに、「もじった」ようなネーミングはドラマではよくありますよね。

以前、吉永小百合さんが大女優の田中絹代さんに扮した『映画女優』(1987 市川崑監督)という映画がありましたが、吉永さんが演じた「田中絹代」はそのままですが、彼女を取り巻く溝口健二監督は「溝内健二」(菅原文太さん)、清水宏監督は「清光宏」などと、もう何だか無理やりな役名で、「ギャグ」みたいに思えたのでした。そこまでする意味がないように思いますが、あくまで「フィクション」ですよ、というエクスキューズなんでしょう。

さて『ブギウギ』は、主役の「笠置シヅ子」も「福来スズ子」と変えていますから、これは完全に「フィクション」のドラマとして作っていますということでしょう。スズ子の恋人で「村山興業」の御曹司・村山愛助(水上恒司さん)は「吉本頴右」をモデルにしていますから「エイスケ」→「アイスケ」という”音”をもじった役名です。笠置シヅ子さんと名コンビで数々のヒット曲を手掛けた「服部良一」も「羽鳥善一」(草彅剛さん)となっており、これなんかは「ハットリ」→「ハトリ」、「良」→「善」という風に分かりやすい「もじり」です。ちなみに、戦死してしまうスズ子の弟・六郎のモデルになった笠置さんの弟は「八郎」です。僕は10年前ぐらいですが、笠置シズ子さんの評伝を読んでいて知りました。

また、淡谷のり子さんをモデルにした役は「茨田りつ子」(菊池凛子さん)ですが、これはどこからきたネーミングなんだろう?劇中、「別れのブルース」をそのまま歌っているから「淡谷のり子」のままで良さそうですが、そうもいかないのか。

しかし、一方では昆夏美さん扮した「李香蘭」(のちの山口淑子さんです)はそのまま実際の名前を使っていましたね。ちょこっとだけしか出ていませんでしたが「李香蘭」だけリアル・ネームだったのは、何か理由があったのかなあ? 

そういえば、『ブギウギ』の前半の「桃色争議」のとき、「ターキー」こと水の江滝子さんをモデルにした人は出ませんでした。このストライキの発端になったのは「東京松竹楽劇部」で、その中心人物が水の江さんで、たしか投獄までされたと思います。まあ、あんまりサイド・ストーリーを広げるわけにもいかなかったんでしょう。(ジャッピー!編集長)