さらに続いて、当ブログ2021年2月4日に書いた「”お笑い”が権力の手先に成り下がるとき」を以下に再録します。

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ひとつ前の当ブログに書いたように、昭和初期、吉本興業が芸人の「引き抜き」や「闇営業」にからんでライバル会社を恫喝したり、暴力団抗争にまで発展したことは『花のれん』(1959 豊田四郎監督)にも、葵わかなさんがヒロインを演じた朝ドラ『わろてんか』にも出てきませんでした。まあ、当時の映画や興行の世界ではよくあることではありましたが。有名なのは、松竹から東宝に引き抜かれた林長二郎(長谷川一夫)さんが暴力団員によって左頬を斬られるという事件ですね。

「山口組」が後ろ盾にいた一方、吉本興業は警察とも密接な関係を持っていて、警察OBを積極的に従業員として雇っていたと言われています。東京に進出したときには、全国に30軒近くの寄席や劇場を持つほどになっていた吉本ですが、その急成長の陰には各方面に相当なお金を使っていたことでしょう。

また、「吉本せい」さんは大阪府議会の議長と愛人関係にあり、選挙資金を融通する代わりに、興行税などいろいろ優遇してもらっていたようです。映画『花のれん』では、佐分利信さん演じる市会議員と純粋に恋におちたようなドラマになっていましたが、実際は欲得がらみだったのかもしれません。しかし、この愛人の府議会議長が脱税疑惑で召喚され、「せい」さんも贈賄、脱税容疑で収監されます。吉本興業にも捜査の手が入ります。

順調にきていた吉本興業に訪れた大ピンチでしたが、府議会議長は獄中で首を吊って自殺し、大阪地検の捜査は打ち切り、「せい」さんへの容疑はうやむやになるのです。映画でも佐分利信さんは獄中自殺しますが、他人の罪をかぶってみたいな理由にトーンダウンしていたように記憶しています。女性の一代記を描くにあたって、当然ながら「せい」さんも、彼女が愛した男も悪く描いていないのです。『わろてんか』に至っては全く別の話でした。劇場の外で「冷やし飴」を売るのと、「安来節」のくだりが共通するぐらいでしたね。

愛人の自殺で切り抜けた「せい」さん、何ともツイている人ですが、うまく権力に近づくなど世渡りの才覚があったからこそなんでしょうね。現在も政府から100億円もの事業資金を得たり、「吉本新喜劇」の舞台にアベ晋ゾーを上げたり、そういう点でも吉本ファミリーの遺伝子は今もしっかりと受け継がれているわけですねえ。

「出雲の阿国」の昔から、芸事は権力に抑えつけられたり禁じられたりしながら庶民の生活の中に根付いていったものです。特に「お笑い」となると、権力や権威をちゃかしたり、笑い飛ばしたりが根本にあるものだと思います。それが、権力者を舞台に上げて媚び売って、政権の手先になるなんて本当に気持ち悪いです。また、これを批判したテレビ局はあまりなかったように思います。あったのかな? でも、吉本の政権癒着として大きく問題視したものはあまり無かったようです。田村亮さんに対し言われたという、吉本の「在京5社、在版5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫だ」という言葉が俄然、真実味を帯びてきますね。権力と金をバックにした「お笑い」って何なんでしょう。これは権力が気にいらないことはやらないという「自粛」、「忖度」の空気を広めますね。そして行き着く先は権力の「介入」、「検閲」です。

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現在放送中の朝ドラ『ブギウギ』では、小雪さんが「吉本せい」(劇中では「村山とみ」)を演じています。上に書いたようなダークサイドは当然、描かれないでしょう。(ジャッピー!編集長)