ひとつ前の当ブログで、『黒い牡牛』(1956 アーヴィング・ラッパー監督)を取り上げました。

「赤狩り」によりハリウッドで「ブラックリスト」に載り、実名で仕事が出来なくなってしまった脚本家ダルトン・トランボさんが偽名で書き、アカデミー賞の原案賞を受賞した作品です。少年と子牛の友情の前半から、闘牛シーンの迫力、そしてその闘牛で子牛が殺されようとするときに観客から「殺すな!」の声が次第に盛り上がっていく……見事な展開です。

やはりダルトン・トランボさんが友人の名前で書いた『ローマの休日』(1953 ウィリアム・ワイラー監督)の原題”Roman holiday”が「残酷な見世物」という意味であることを少し前の当ブログで書きましたが、その3年後、まさに『黒い牡牛』は闘牛という「残酷な見世物」をモチーフに、民衆のあげる「声」の力を信じるメッセージを伝えています。

映画の最後に「この映画はメキシコの皆様の協力で完成しました。感謝をこめて、アミーゴ!」とテロップが出ます。「赤狩り」旋風が吹き荒れたアメリカを嫌いローマで全篇撮影した『ローマの休日』とこの辺も似ていますね。

『ローマの休日』がアカデミー賞原案賞を受賞したときは名前を貸したイアン・マクレラン・ハンターさんに与えられましたが、『黒い牡牛』のときは受賞者のロバート・リッチが登場しないので「謎の脚本家」として、記者たちにも正体が分からなかったといいます。

1940年代後半(すなわち戦後、昭和20年代)からアメリカに吹き荒れたレッド・パージのヒステリックな嵐はハリウッドにまで及び、何人もの監督、脚本家、俳優たちが排斥されました。その様子はダルトン・トランボさんを描いた『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2016 ジェイ・ローチ監督)に描かれています。赤狩りの標的になって、投獄もされ、ハリウッドの大手映画会社から干されたトランボさんは、友人の名や偽名を使い脚本を書き続けます。

苦境にあったトランボを救うのが、B級映画を量産するインディペンデント系の製作者フランク・キングさんです。映画ではジョン・グッドマンさんが扮しています。キングさんはトランボさんに仕事を発注し続け、それを嗅ぎ付けたハリウッド側から「トランボを解雇しないと俳優をボイコットさせるぞ!」と脅されると、「それなら全部素人を使ってやるよ!」とバットを振り回して追い返すシーンが痛快でした。ちなみに『黒い牡牛』もキングさんの会社、キング・ブラザースの製作です。(ジャッピー!編集長)