ひとつ前の当ブログで、1月4日に浅草に「初詣」に行った帰り、『PERFECT DAYS』(2023 ヴィム・ヴェンダース監督)に出てくる地下道の居酒屋の前を通って、ちょっとした「映画の聖地巡礼」みたいになったことを書きました。

僕はこの映画を公開初日の昨年12月22日に観たばかりなので、あ、あそこが平山(役所広司さん)がいつも座っている席だ!などと思いながら通り過ぎたのですが、映画の中で観るよりも実物の店は狭いなあと感じました。そういえば、『男はつらいよ』シリーズに出てくる「柴又帝釈天」も実際に行ってみると案外に狭く感じたなあ。スクリーンに映ると「広く」感じるのは、映画のマジックなんでしょうか。

ともかく、この浅草地下道の居酒屋含め、平山が行くのは決まった場所ばかりで、移動の範囲はごく限られています。仕事で清掃する渋谷の公衆トイレはモダンなデザインですが、日常を過ごすのは「昭和」の佇まいがある場所です。銭湯に行き、古本屋さんで文庫本を買い、浅草の居酒屋でレモンサワーを飲む。休みの日は、行きつけの小料理屋さん(女将は石川さゆりさん)に行くというのがちょっとしたアクセントなんでしょう。自転車で行ける範囲で自分の時間を過ごし、空を見上げ、植物に水をやり、ささやかながら幸せを感じています。

かといって「世捨て人」ではなく、清掃の道具は自分で買い揃え工夫したりしているので「仕事」には真摯に取り組み、社会と繋がっています。そういえば、「真摯に」を安売りするように口にするどこぞの首相、政治家どもとは対極にいるような人物ですね。自分の裏金を作り出すために、あの手この手を使ってルールを破る連中を逆さにしても出てこない「清貧」とか「慎ましさ」といった言葉が、この「平山」の姿にピッタリです。

「平山」は小津安二郎監督の映画でよく使われる役名(特に笠智衆さん演じる役)です。ヴェンダース監督は小津監督をリスペクトしていることでも知られていますが、小津監督が描いた日本人の「美徳」が外国人の監督の目によって見つめ直されているというのはちょっと淋しい気もします。ジャニー喜多川の性犯罪も海外(BBC)の指摘で大きく取り上げられたわけだし、日本は「良さ」も「悪さ」も外から見ないと分からないのかねえ。「美しい国」を標榜したクソのような首相以来、すっかり日本人の美しさは忘れられ、悪は蔓延る国になってしまったのでしょう。(ジャッピー!編集長)