3つ前の当ブログで、NHK『ラジオ深夜便』の「夜のしおり」で落合恵子さんが紹介された鈴木まもるさん著の『戦争をやめた人たち』の話を書きました。第一次世界大戦の戦場でクリスマスの夜だけ、敵兵どうしがサッカーに興じた実話を描いた絵本です。

これで思い出した朝ドラのシーンがあります。それについて書いた当ブログ2021年8月21日「『ひよっこ』に描かれた時代、まだ戦争の影が残っていた」を以下に再録します。

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ひとつ前の当ブログで、2017年前期の朝ドラ『ひよっこ』、1964年の東京オリンピック前後の時代を背景にしたドラマに、有村架純さんはフィットしていたという話を書きました。

僕にとっては何十年ぶりに観た朝ドラということもありますが、『ひよっこ』は熱心に観ました。登場人物それぞれの造形がうまくできていて、応援したくなる気持ちになるドラマでした。つまり感情移入ということなんですが、これはやはり自分も生きていた「昭和」の時代が背景にあるから思い入れもひとしおになるのでしょう。「あの頃」を一所懸命に生きた市井の人への同志感というか、共感が登場人物への距離を近くしたのだと思います。

印象に残ったシーンはいくつもありますが、中でもムネオ叔父さん(峯田和伸さん)がビートルズ公演のために上京して、みね子や「すずふり亭」やアパートの人たちに戦争の話をした場面は心に残っています。

ムネオさんは召集され、インパール作戦に動員されます。戦局は悪化し、周囲はバタバタと死んでいく状況で、山の中を飲まず食わずで彷徨っていたムネオさんは敵兵に出くわします。もうだめだと思ったムネオさんですが、自分と同じくらいの年齢のイギリス兵はニコッと笑って去っていったのです。「戦争」という状況だから「敵」になってしまったけれど、自分も相手も同じ若者で、国に帰れば家族があって、暮らしがあって……ということに気づくのです。いつもヘラヘラ笑っていて能天気に見えたムネオ叔父さんの底抜けの明るさは、この体験から生まれていました。「拾った命だから笑って生きよう」と決意したのです。そして、ただ一度遭遇した名も知らぬイギリス兵に対して「俺は生きてっとう! お前も生きて笑ってっか!」というメッセージなのです。

終りの方の回で、愛子(和久井映見さん)が佐々木蔵之介さんと二人で話すシーンで、戦死した婚約者への思いを吐露するのもそうですが、この『ひよっこ』の時代(東京オリンピックから昭和40年代始め)、多くの人の人生を変えてしまった「戦争」はまだ大きな影を投げかけていたのです。そんな戦争の傷跡に耐えながら前向きに生き、復興し、経済成長を果たした「昭和」は、「もう戦争はしない」という「平和」の誓いがあったからこそです。

そんな戦後日本を反故にしようとしする動きは独裁者アベ晋ゾー以来、強まっています。きっと、この連中はこの『ひよっこ』を観ても普通の人、一人一人の生活に対する想像力なんて湧いてこないのでしょうねえ。

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『戦争をやめた人たち』でサッカーに興じたイギリス兵とドイツ兵も、目の前に現れた相手が同じような年齢で同じように「家に帰りたいなあ」と思い、同じ歌を聴き、同じ人間なのだということを知ってひとときの友情を感じたのでしょう。(ジャッピー!編集長)