このところの当ブログで、現在リバイバル公開中の『竜二』(1983 川島透監督)の脚本・主演の金子正次さんが公開直後の11月6日に亡くなったこと、金子正次さんが世に出るために尽力していた松田優作さんがその6年後の1989年11月6日に40歳でお亡くなりになったことを書いています。

萩原健一さんが『竜二』のエンディングに流れる「ララバイ」の使用許可を心よく出してくれた話をひとつ前の当ブログに書きましたが、松田優作さんとショーケンにもクロスするエピソードがあります。松田優作さんの遺作になってしまった『ブラック・レイン』(1989 リドリー・スコット監督)で、優作さんの演じた凶悪なヤクザの役は当初は萩原健一さんだったそうです。高倉健さん演じた刑事も勝新太郎さんがオファーされていて、若山富三郎さん演じたヤクザの親分は何と藤山寛美さんだったそう。勝さんが出演を渋り、ショーケンが健さんを推薦するも、脚本を書きなおしているうちに時間が過ぎ、萩原さんのスケジュールが合わなくなって出演を断念したといいます。

代わって、オーディションを受け、役を射止めたのが松田優作さんだったわけですが、逆に、優作さんがやるはずだった役をショーケンが演じた映画があります。『誘拐報道』(1982 伊藤俊也監督)です。借金に追われ、子ども(しかも自分の娘の同級生)を誘拐する男の役です。子どもを殺そうとして殺せないシーンなど熱演でした。

ただ、実話をもとにした映画なので、ショーケンが当時一緒に暮らしていたいしだあゆみさんのお母さんに「あんんな役、やめてください」と言われたそうですが。

このショーケンがやった誘拐犯の役に元々、優作さんに出演依頼があったのです。優作さんは最初の奥さんと離婚し、幼い娘とも離れていました。優作さんはこの娘さんを大変可愛がっていてそばにいれなくなったことを不憫に思っていたそうです。元の奥さんに電話で「今の俺に幼い子どもを誘拐する役なんてできるかよ。娘と同じ年ごろの子どもを見るだけで胸が詰まって泣くのをこらえるのがやっとなんだ……」と言ったそうです。

しかも、この『誘拐報道』には、犯人が逮捕され、妻と娘は夜逃げしようとすると、新聞記者が殺到したとき、娘が「うち、お父ちゃん、好きや」と叫ぶシーンがありますからね。とても普通の状態でやれないでしょう。気持ちは分かります。しかし、そういった内面の葛藤を抱えてやったら、それはそれで、すごい演技でひとつ突き抜けたものになったと思います。(ジャッピー!編集長)