ひとつ前の当ブログの続きです。

『九ちゃん音頭』(1962 市村泰一監督)は、新丸子商店街を舞台に、坂本九さんが扮するのは八百屋の小僧さん・一八(イッパチを足して九ちゃんと呼ばれます)です。

映画は商店街のいろいろなお店の小僧さんたちの交流を描いています。プロボクサー志望でちょっとワルっぽいジェリー藤尾さんは肉屋の小僧さん、電器屋に勤めるのは石川進さん、あと「ダニー飯田とパラダイス・キング」も登場、当時のカバー・ポップス歌手が顔を揃えます。

それぞれのお店の休みがバラバラなので一緒に遊べないので、九ちゃんが商店街の休みを統一したり、小僧さん仲間の結束の強さが描かれます。山下さんが八百屋を辞めて勤め人になったのを見て「いいなあ、ホワイトカラーは……」とぼやく仲間には、九ちゃん「ダメだよ。オレたちは自分を守るのは自分自身なんだから」と叱咤します。とにかく、仲間思いで前向きな九ちゃんなのです。既に「松竹ヌーヴェル・ヴァーグ」を通過して、元の松竹お得意の明朗な小市民映画に戻っています。

九ちゃんの憧れのマドンナは、ブルジョアのお屋敷(奥さんが浦辺粂子さん!)のお手伝いさんの桑野みゆきさんです。冒頭、洗濯物を干しながら唄っている桑野さんに見とれるシーンがありますが、歌声は明らかに森山加代子さんのアフレコです。また、九ちゃんと同じ神津島出身の十朱幸代さん(うなぎ屋の店員)が、ジェリーさんと付き合っていて、幼馴染の九ちゃんは心配します。十朱さんが夏ミカンばかり食べているのを見た桑野さんが「十朱さんが妊娠している」と思い込んで九ちゃんに知らせたからです。それをきいたジェリーさんは金を稼ごうと、肉屋を辞めてキャバレーの用心棒みたいになり、悪い仲間とひったくりの計画に加わります。狙われたのがホワイトカラーになった山下さんですが、良心が痛んだジェリーさんはワル仲間を裏切り、山下さんに「カバンに気をつけろ!」と注意します。商店街仲間の友情でジェリーさんは悪の道に入らず、十朱さんの妊娠も桑野さんの早とちりでした。

さて、九ちゃんは桑野さんに「ぼくのこと①好き②フツウ③嫌い」と書いた三択のラブレターを出し、返事をお祭りの夜にもらうことになりますが、桑野さんは結婚が決まり田舎に帰ることになっていたのです。ガックリした九ちゃんが浦辺さんのお屋敷に行くと、ベランダから例の歌が聞こえます。新しいお手伝いさんは、桑野さんと入れ替わりでやって来た彼女の妹だったのです。これが森山加代子さんで、ここではもちろんご本人の歌唱です。九ちゃんにまた希望の光がさした?ところで映画は終わります。

森山加代子さんはラストにちょこっと出るだけですが、当時の商店街の様子や、御用聞き、お手伝いさん、町のお祭り、のど自慢大会など、昭和の懐かしい生活描写が楽しめます。真鍋博さんによるカラフルなタイトルバック、小僧さん仲間が海で遊ぶシーンの桑野みゆきさんのキュートな水着姿も忘れられません。 (ジャッピー!編集長)