ひとつ前の当ブログの続きです。

中井貴恵さん、喜一さん姉弟が、お父さん・佐田啓二さんの出演映画で一番好きなものにあげたのが『この広い空のどこかに』(1954 小林正樹監督)です。

この映画で佐田啓二さんは妻役の久我美子さんと酒屋を営んでいます。ある日、戦前にこの店で働いていた「俊どん」(大木実さん)が久々に訪ねてきます。「俊どん」は今は田舎で堅実な暮らしをしているようです。佐田啓二さんには母(浦辺粂子さん)の連れ子で妹にあたる泰子(高峰秀子さん)がいますが、この泰子と俊どんはお互い思い合っていたようで、泰子に会いに来たふしがあります。

ところが、泰子は戦災で足が不自由になってしまっていて、みじめな姿を見せたくないと逃げ出してしまいます。泰子は不具になってしまった自分は「厄介者」になっていると引け目を感じ、また周囲も「障害者同士なら」みたいな縁談を持ってくるので、卑屈になっているのです。戦争を生き残っても、こうした傷を抱え人生が一変してしまった人は多かったのだろうと思います。

しかし、俊どんは、「足の一本や二本なくても泰子さんは泰子さんです」という言葉を残して田舎へ帰っていきます。引きこもり気味だった泰子はそれを聞いて、一歩踏み出す気持ちになり、俊どんを追っていきます。けっこうな山奥に、悪い足を引きずって歩いていくデコちゃんの姿が感動的です。

また、もう一人訪問者があります。久我さんの幼馴染の青年です。こちらは「職探し」で上京してきたのです。演じるのは内田良平さんで、後年は悪役の多かった内田さんが純朴な青年を演じているのが新鮮?です。単なる幼馴染なのに、高峰秀子さんや浦辺粂子さんは「あれは久我さんの元カノだよ」と無責任に疑いをかけるので佐田啓二さんも動揺します。しかし、姑や小姑に対し気づまりな久我さんのことを思って「お前がこの家にいたくなかったら一緒に出て行こう」とまで言います。夫婦の信頼は揺らぐことなく終わり、爽やかな後味を残します。

この作品がお好きだというのは、幼い頃に父を亡くした貴恵さん、喜一さんが、ささやかな幸せを求める「家庭人」としての佐田さんを追体験したように感じたのかもしれません。(ジャッピー!編集長)