ひとつ前の当ブログで書いたように、『遥かなる山の呼び声』(1980 山田洋次監督)における倍賞千恵子さんの役名「民子」は、『家族』(1970 山田洋次監督)や『故郷』(1972 山田洋次監督)で倍賞さんが演じたヒロインと同じ名前なので、連続性を感じます。

『家族』、『故郷』で民子(倍賞千恵子さん)の夫を演じたのは井川比佐志さん。『遥かなる山の呼び声』では、民子(倍賞千恵子さん)は女手ひとつで息子(吉岡秀隆さん)を育てている設定で、そこに流れ者の高倉健さんがやって来るのでした。ちなみに、高倉健さんが黒澤明監督からオファーされた『乱』(1985 黒澤明監督)を断ったあと、健さんがやるはずだった役を演じたのが井川比佐志さんでした。

高倉健さんは自分の納得した役しかやらないし、基本的に「主役」しかやらないのですが、さすがに天下の黒澤明監督作品、脇役とはいえ『乱』出演には迷ったようです。これは以前の当ブログにも書きましたが、黒澤監督の前作『影武者』(1980 黒澤明監督)に出演していた萩原健一さんに「黒澤監督って怖い人なの?」と尋ねたそうです。

かつて、ショーケンが黒澤映画に出るずっと前、1972年、NHKの『明智探偵事務所』で父子役で共演した森雅之さんに「黒澤明さんってどういう方ですか」と訊いたら、森さんはしばらく沈黙したあと「彼は‟けつめど”の穴のシワまで数える男だよ」と答えたそうです。今度は、ショーケンが「訊かれる」立場になったわけです。ちなみに、その後、黒澤演出を経験したショーケンは「森さんがおっしゃったのは名言」と実感したといいます。

『影武者』の現場で死にそうな目にあったりしても、まず「馬は大丈夫か?」と言うような黒澤明監督、「これは何なんだ、映画の撮影か、本当の戦なのか……」と思ったという合戦シーンのことなど、ショーケンは話したでしょうから、健さんは参考にしたのかもしれません。それだけが理由ではないにせよ、結局、直に健さんを訪ねてくるほどの黒澤監督の熱心なオファーを断り、健さんの『乱』への出演は無くなりました。

「日本映画制作適正化機構」が発足し「作品認定制度」というのもできている今だったら、黒澤明監督の現場なんて問題だらけだったでしょうね。 (ジャッピー!編集長)