ひとつ前の当ブログで書いたように、かつて佐藤純彌監督がトークショーで「俳優には2つのタイプがいる。ひとつは、自分自身の個性やスタイルを基にしてそれに役のキャラクターを引き寄せるタイプ。もうひとつは、自分の個性を捨てて役に入り込むタイプ」と話されました。『君よ憤怒の河を渉れ』(1976佐藤純彌監督)は前者タイプの高倉健さん、後者タイプの原田芳雄さんの共演がうまく作用したと述べておられました。

そしてさらに、後者タイプの代表として三國連太郎さんの名前をあげておられました。佐藤監督のデビュー作『陸軍残虐物語』(1963 佐藤純彌監督)で主演をつとめたのが三國さんです。この作品はタイトルから分かる通り、戦時中の軍隊組織の非人間性をこれでもかという感じで描いています。

三國さんの役は善良な田舎の百姓です。徴兵され陸軍に配属されますが、純朴で鈍重なところのある三國さんはたびたび制裁の対照になります。自分の衣服を他の兵隊にとられ無くなってしまいボヤボヤしていると、上官から「いいか、軍隊ではとるよりとられる方が悪いんだ!」と怒られます。そう言われたので、干してある洗濯物から他の人のをとろうとすると「貴様!」と殴られるという理不尽さです。とにかく、いろいろなシゴキ、制裁方法が出るのでじてすが、(体を腕だけで支えてエア自転車漕ぎ、ホウキを背中にさして歌を唄わせるなど)よくもまあ、こんなに人の尊厳をズタズタにするやり口を考え出すものです。

一方では、有力者の息子なので「除隊後の就職先を親に頼んであげますよ」とまで口にして上官に取り入る奴(江原真二郎さん)がいます。その上官(西村晃さん)は面会に来た三國さんの妻(岩崎加根子さん)を騙して犯すなど鬼畜の振る舞いです。

ある日、休日に饅頭が配給されますが、せこい江原さんは三國さんの饅頭を盗みます。それがバレて中村賀津雄さんに殴られた江原さんは怨みを持ちます。三國さんの銃の点検で「銃針」が一本見つかりません。江原さんが三國さんを陥れようと隠したのです。本部から視察に来るというのに天皇陛下から賜った銃を粗末に扱ったと思われたら大変だ!ということで大捜索。三國さんは大きな便所(もちろん汲み取りです)の中に入れられクソまみれになって捜します。この映画はモノクロだからまだ良かった……と思わせるようなリアルな場面で、本当に「臭って」くるようでした! 

徹底的に虐められボロ屑のように扱われる兵隊を演じた三國さん、佐藤監督言うところの「自分の個性を捨てて役に入り込むタイプ」で、撮影中は役のボロボロの衣装を家でも着ていたそうです。そんな三國さんの熱演もあり、『陸軍残虐物語』は監督デビュー作とは思えない完成度で圧倒させられました!敵との戦闘場面はないですが、軍隊内部をその容赦ない描写で告発したこの作品、のちの佐藤純彌作品に通底するテーマ「組織対個人」が既に表れています。やはりデビュー作にはその作家の全てがありますね。 (ジャッピー!編集長)