ひとつ前の当ブログで、黒柳徹子さんがNHKの専属テレビ女優だった頃を綴った原作を映画化した『トットチャンネル』(1987 大森一樹監督)を取り上げました。

ナレーターを黒柳徹子さんがつとめながら、斉藤由貴さん演じるトットが「柴柳徹子」という役名なのは、実際のエピソードに映画オリジナルの部分を加えているからでしょう。原作だけでも面白いエピソード満載ですが、さらに独自の部分も入れ「内容たっぷり」ながら上映時間が97分で、観終えたときに驚いた記憶があります。

僕は、2016年3月31日に新文芸坐で大森一樹監督のトークショーを観たことがあるのですが、そのとき印象的だったのが「退屈恐怖症」という言葉です。聞き手の樋口尚文さんが「お客さんを楽しませる映画を撮られますよね」と言ったのに対し、大森一樹監督は「“退屈恐怖症”なんですよ。自分が観るときも退屈が一番つらい。だから、観る人が退屈するんじゃないかと心配になる」とおっしゃり、それで「詰め込んじゃう」ということでした。

このトークショーは、『ベトナムの風に吹かれて』(2015 大森一樹監督)の上映に合わせたもので、この作品も「詰めこみ過ぎ」と言われたそうですが、ある意味、大森監督「らしい」映画だと思います。

大森監督は斉藤由貴さんや吉川晃司さんの映画で知られますが、「ひとりのスターが育っていく過程の面白さ」があったということを語っておられました。そのスターの魅力を最大限に活かすように、何よりも明るく楽しい映画を心掛けていたのです。

大森監督は2005年からは大阪芸術大学・芸術学部映像学科の教授をつとめており後進の指導にあたっていましたが、熊切和嘉監督や山下敦弘監督らについて「彼らの映画観てても暗いしなあ~。スター映画じゃない。でもそれが評価されるのが今の時代なのかな」と語ったのがちょっと淋しそうでした。

また、若い人が企画を持ってきていろいろ説明をした後、大森監督が「で、誰がこれを観るの?」と訊くと、ポカンとする人が多いという話もされました。つまり「観るお客さんのことを考えていない」人が多く、大森監督が「今、閉ざされた映画が多い」と語っていました。これは、僕も同感で「分かる人だけ分かればいい」と開き直っている映画がけっこうあるような気がします。(ジャッピー!編集長)