ひとつ前の当ブログで、『ヒポクラテスたち』(1980 大森一樹監督)で古尾谷雅人さんが住む学生寮に8ミリを撮っている映画狂の青年が出てくることに触れました。

大森一樹監督の原点でもある「8ミリ」へのこだわりが見られるといえば、『風の歌を聴け』(1981 大森一樹監督)もそうです。ご存知、村上春樹さんのデビュー作の映画化です。原作小説では、「僕」の友人「鼠」は小説を書いているのですが、映画では「8ミリ映画」を撮っている設定に変わっていて、その「8ミリ映画」も出てきます。たしか、ひたすら「穴を掘っている」映画でした。

あと、原作では出会ったばかりの「僕」と「鼠」が浜辺で缶ビールを何本もあけますが、映画では無人の西宮球場だったなあ。「鼠」を演じたのはヒカシューの巻上公一さんでしたが、イメージに合うキャスティングでした。

それ以外は、ほぼ原作通りだったと思いますが、公開時、評判はあまり良くなかったですね。特に小説のファンからは成功作とは受け取られなかったようです。村上春樹さんの原作がコラージュ的なものだし、映画にするのは難しい素材だったとは思います。

しかし、僕はそんなに悪い印象は持っていません。大森一樹監督は村上さんと同じ芦屋出身で中学校の後輩ということもあり、舞台となる神戸の雰囲気がよく出ていたと思うのです。特に、「僕」(小林薫さん)と真行寺君枝さんが夜風に吹かれながら埠頭を歩くシーンなど、海から吹く風の匂いや空気の質感が漂っていました。

その他にも、神戸の街の風景がきちっと捉えられていて、さすが大森監督、地元を知り尽くしていると感じました。昔、『パリ、ところどころ』(1965)という、ジャン=リュック・ゴダールさん、エリック・ロメールさんなど6人の監督によるオムニバス映画がありましたが、こちらは「神戸、ところどころ」といった風情でした。(ジャッピー!編集長)