ひとつ前の当ブログで、2019年後期の朝ドラ『スカーレット』に触れました。

ヒロイン・貴美子(戸田恵梨香さん)は18歳でイッセー尾形さん演じる絵付けの師匠の弟子(9番弟子なのでキュウちゃんと呼ばれています)になります。

それまで住み込みでお手伝いさんをやっていた貴美子ですが、その「荒木荘」を去る回は印象的でした。中学校を出た貴美子が下着会社の女社長(羽野晶紀さん)に頼まれて働くことになった「荒木荘」。お手伝いの先輩、三林京子さんに鍛えられて賄いや家事をしこまれ成長します。個性的な住人とのやり取りも面白く、これだけでもじゅうぶん、ひとつのドラマが作れそうなほどでした。

それが、お父さんの北村一輝さんが借金をこさえて家計が苦しくなって、帰らざるをえなくなってしまいます。そして、いよいよ「荒木荘」を去るというとき、自分が働いていた台所を眺めまわして、「お鍋はそこ、オタマはここ」とか、「部屋のホウキはここ、庭のホウキはこっち」など、「荒木荘」の日々を思い出します。貴美子は「私もけっこう、やっていたなあ」と、この暮らしのルーティンを思い返すのですが、ここが良かったのです。そんなルーティンに覆われた平凡な日常、生活への愛おしさが感じられました。この辺、あの名作『この世界の片隅に』(2017 片渕須直監督)を思い出させます。こういったささやかな暮らしを大切にしているという点で、僕はこの『スカーレット』を書いた人は信用できるなと思ったのです。

「荒木荘」の住人、新聞記者のちや子(水野美紀さん)には会えず、去って行った貴美子ですが、手紙を書き残していきます。そこには、いつも帰りの遅いちや子さんに作ってあげていた「お茶漬け」のレシピが書いてあります。ここも泣けましたねえ。手紙には、貴美子が自分の前にある二つの道について書いてあります。「荒木荘」で働いて学校に通い美術を習うのは楽しそうでワクワクする、信楽に帰って勤める道はどうなるか分からない、分からない道を歩くのは勇気があることです、だから最後にちや子さんに会いたかった……と綴ります。そして、「いつかまた、この道を選んで良かったと話せるときが来るといいな」としめています。水野美紀さんが泣きますが、観ている僕も思わず落涙してしまいました。人が人と出会って、そして相手のことを気にかけたり、気にかけてもらうことの素晴らしさ。そんなことが伝わってくる暖かい場面でした。(ジャッピー!編集長)