ひとつ前の当ブログで書いたように、『夜明けまでバス停で』(2022 高橋伴明監督)は完全に「政権にケンカを売って」いる映画です。

モチーフにしている「渋谷バス停事件」が表す、「貧困」、「格差」、「派遣切り」、「社会的孤立」といった諸問題だけではなく、この映画には様々な問題が丸ごとグツグツと煮込んでいます。

大林三佐子さんをモデルとした三知子(板谷由夏さん)とともに解雇されるのが、ルビー・モレノさんで、幼い子どもを抱えている彼女は店の客の食べ残しをビニール袋に入れて持ち帰ろうとします。その「残飯」を持ち帰るのを見つけた店長(三浦貴大さん)は激しく罵倒し、食べ残しを奪い取り目の前で捨て食器洗剤をぶっかけます。ルビーさんの「私、人間だよ! ノラ犬じゃないよ!」という叫びが悲痛です。

この三浦貴大さん演じる店長が最低最悪の奴で、パワハラだけでなく、立場をカサにきたセクハラ、解雇した3人に払うべき退職金も着服、文書も偽造しています。いわば、アベ晋ゾー政権やその周辺を一人にまとめたような人物なのです。

劇中には、「緊急事態宣言」を発出するアベ晋ゾーの会見、ガースーが「自助ファースト」とほざいたときの映像が流れますし、「モリ・カケ・桜を曖昧にしたまま放り出しやがって」というセリフも出てきます。そういう意味では、内角ギリギリというよりは、もう意識してビーンボール投げているかもしれません。

この映画、先月10月に公開されましたが、撮影は1年前に始まっています。大林三佐子んが亡くなって1年目の2021年11月16日、幡ヶ谷のバス停に献花し手を合わせてからクランクインしたといいます。だから、とうぜんアベ晋ゾー銃撃事件の起こる前に撮影は終わっていたわけです。それども何か予見するようなラストになっているのは、それだけアベ以降の政権に民衆の憤りや怨みがいかに堆積していたかの証左と思えます。

三知子が言う「一度ぐらい逆らってみたいんです」の台詞が強く印象に残ります。「映画」という想像力と創造力による、「権力」への大いなる抵抗です。(ジャッピー!編集長)