ひとつ前の当ブログで、大藪春彦さん原作の映画化『野獣の青春』(1963 鈴木清順監督)に触れました。

主人公の宍戸錠さんがコールガール組織に潜入する話ですが、その組織の「スダレのヒデ」という男は一見、優男ですが「お前のおふくろはパンパンだってな」と言われるとスイッチが入ります。カミソリで相手の顔を「スダレ」のように切り刻むという異常性を秘めている役です。映画のラストでこの「スダレのヒデ」が渡辺美佐子さんの顔を切り刻むショットがあり、ラッシュの段階では残されていたのに、公開された映画では渡辺美佐子さんの悲鳴だけで、そのシーンは映されませんでした。おそらく映倫がらみでカットされたのでしょう。

こうした狂気を裡に秘めるキャラクターが川地民夫さんにピッタリで、その後も『野獣を消せ』(1969 長谷部安春監督)で、印象的な演技を見せています。この作品は、渡哲也さんの妹をレイプした藤竜也さん率いるバイク集団の一人を川地さんが演じますが、ここでも野卑な仲間たちが肉を手づかみで食っている中で、ひとりナヨッとした感じでフォークを使って食べていたりと異彩を放ちます。

この川地さん演じる青年は、他の連中と比べて大人しいのですがバイクを激愛していて、愛車が破壊されると逆上して突っ込んでくるという偏執狂のような役でした。おそらく『野獣の青春』の役柄のイメージの延長線上にあると感じました。こういうちょっとしたアクセントが映画を面白くしますね。

この『野獣を消せ』は、藤竜也さん率いるバイク集団がのちの『野良猫ロック』シリーズを思わせる死、特に米軍基地のある街が舞台になっている点は、『野良猫ロック セックスハンター』(1970 長谷部安春監督)に通底するものがあります。『野獣を消せ』の冒頭、爆音をたて飛んでいく米軍の輸送機が画面いっぱいに映し出され、その下で日本人同士が血を流し合うのが暗喩のポテンシャルを高めているのです。(当ブログ2021年12月19日「『野良猫ロック セックスハンター』に暗喩される日本の植民地的状況」もお読みください) (ジャッピー!編集長)