ひとつ前の当ブログで、『誘拐報道』(1982 伊藤俊也監督)を取り上げました。

萩原健一さん演じる犯人は実家に戻ると、母親(賀原夏子さん)が「お前の好きなものを用意しといたよ」と食事を出すのですが、ここでショーケンが「ほぐしてくれよ」と言って賀原さんが魚の骨をとってやるシーンがあります。さりげないシーンですが、この犯人がいかに甘やかされてきた男かが即時に分かります。

新聞社では丹波哲郎さん演じるデスクの下、事件を追って連日徹夜です。仮眠室ではみんな股引姿でザコ寝です。「家族には見せられんな……」というセリフが緊張を和らげます。そんな中、若手記者の宅麻伸さんが「まだ生きている可能性があるのに、“殺された”想定の記事なんか書けません!」とかみつきます。すると、「ばかやろう! 事実を伝えるのが新聞の役割だ! 怨むなら犯人を怨め!」と返されてしまいます。こういった「熱い」場面も含め、昭和のブンヤの姿が活写されていました。

そして、子どもを誘拐された夫婦(岡本富士太さんと秋吉久美子さん)の叫びも悲痛です。度重なる「身代金受け渡し」現場に犯人が現れないのは警察が張り込んでいるからだと、もう介入しないでくれと頼みます。「もう来ないでください! もし息子が助からなかったとしても……そのとき出来るだけのことをしなかったら……一生つらい思いになります」と慟哭する場面が印象に残ります。

岡本さんの家に詰めている刑事(伊東四朗さん)は「あんたにもお子さんがいるんでしょう……」と岡本さんに言われ、受け渡し現場に警察がついていかないよう進言しますが、指揮をとる警察上層部の平幹二朗さんに一蹴されます。このときの平幹二朗さんの冷徹さに「官僚組織」のあり方も見えてきます。

これは実際に起こった誘拐事件について書かれた「読売新聞大阪社会部」のノンフィクションを原作としているだけに、誘拐事件を「報道」、「警察」、「被害者家族」、「加害者家族」、それぞれの角度から多層的に描いた力作です。(ジャッピー!編集長)