ひとつ前の当ブログの続きです。

かつて、テレビドラマで共演した森雅之さんに黒澤明監督について尋ねた萩原健一さん、「けつめどの穴のシワまで数える人だよ」と言われましたが、後年『影武者』(1980 黒澤明監督)に出演して、その言葉を実感することになったのです。

クライマックスの合戦(長篠の戦い)の撮影では、黒澤監督の思い通りの「雲」になってないと「雲待ち」で一週間カメラを回さず、全員甲冑をつけたまま延々と待機させられたといいます。ようやく撮影になると、何百頭もの馬が一斉に駆け出し、発煙弾が放たれ、ショーケンは「これは何なんだよ、映画の撮影なのか、本当の戦(いくさ)なのか……」という気持ちになったと回想しています。

クランクアップし、黒澤監督に挨拶に行ったショーケン、「握手をしてください」と言うと、黒澤さん「もう一本やってからな。おれともう一本やろう。また5年したらやりたくなるよ」と答えたそうです。さすがのショーケンも身体が硬直し、冷や汗が出たといいます。

撮影中、怒鳴りまくられ、無理な要求もされ、ショーケンは何度も「お前は何様だ」と黒澤さんに言いそうになったそうですが、不思議にいろいろ意見を訊いてくることもあったそうなので、黒澤さんはショーケンを評価していたのかもしれません。ショーケンは以後、黒澤監督と仕事をすることはなかったですが、『乱』(1985 黒澤明監督)に出ていたらどんな役やっていたかなどと夢想してしまいます。

そんなことを、『乱』のオファーを受けて迷っていた高倉健さんに話したのでしょう。そのリアルな体験談が効いたかどうかはともかく、健さんは出演を断り、世界のクロサワと健さんのコラボは実現しなかったのでした。 (ジャッピー!編集長)