ひとつ前の当ブログで、下北沢にあった小さな名画座「シネマ・アートン下北沢」のことを書きました。

最初は自主映画を作ろうと映画の技術スタッフ(美術や衣装など)の方々が集まって話しているうちに「自分たちで映画館を作ろう」と出来た映画館でした。

元々のきっかけになった映画が『ざわざわ下北沢』(2000 市川準監督)です。街でロケされ、実際にあるお店が映し出され、人物は下北沢から一歩も出ない、本当のご当地映画で、当時の下北沢の風景が刻まれているので、街が大きく変貌してしまった今となっては、貴重な記録であります。

この作品の中で、主役の原田芳雄さんのセリフが印象的です。下北沢について語るシーンで、「渋谷とか原宿とはちょっと違う。何か水辺のような雰囲気があるんだ。山で遭難しかかったりすると、沢を探す。水の流れに沿って歩いていける。必ずどこかに出るからだ。若い人たちがみんな集まって来るのは、きっと遭難しかけているんじゃないか。遭難しかけた奴が集まってくるんだ」と言うのです。

市川準監督によると、原田芳雄さんの家で呑んでいてよくそういう話をされていたそうです。それを脚本に入れこんだり、アドリブも多いと思います。まさに、下北沢の自由な空気感をそのままフィルムに映しとったような映画でした。

原田芳雄さんは、自身の高校時代は山岳部に所属されて「山」にとりつかれていたといいます。そういえば、『新宿アウトロー ぶっ飛ばせ』(1970 藤田敏八監督)のラスト、渡哲也さんとヘリに乗り込んだはいいが、操縦士(地井武男さん)が射殺され、フラフラと飛んで行くシーンで、渡さんが「どこに行く?」と訊くと、原田さんが「山がいいねえ、山はいいよ!」と答えるのです。おそらく、原田さんのアドリブと僕はにらんでいます。 (ジャッピー!編集長)