5月5日の当ブログで、『イルカの日』(1973 マイク・ニコルズ監督)を取り上げました。

マイク・ニコルズ監督といえば、当然まず『卒業』(1967 マイク・二コルズ監督)が真っ先に浮かびますよね。何と言っても、ダスティン・ホフマンさんが「エレーン!」と叫んで花嫁を奪還するあのラストシーンですが、バスに乗り込んで座席に座ったときの二人のホッとしたような、だけど不安が滲みでる表情が印象的です。

初めて観たときから、この表情、自然に出たものか、演技なのか(だとしたら、どういう演出をしたのか)大いに気になったものです。のちにマイク・二コルズ監督が撮った『愛の狩人』(1971 マイク・二コルズ監督)には、学生時代の恋人(キャンディス・バーゲンさん)と結婚し、仕事も順調で経済的にも恵まれているのに時とともに満たされなくなり若い女の子とつきあったりして心の空洞をうめようとする男が主人公です。この男を演じるのが、「サイモン&ガーファンクル」のアート・ガーファンクルさんということもあって、いやでも『卒業』を思い出し、あのバスに乗ったカップルの「その後」みたいに思えて寒々とした思いを抱いたのでした。

この映画には、アート・ガーファンクルさんの友人でジャック・ニコルソンさんも出演、こちらも結婚生活は破綻し、あげくは性的不能になってしまう男です。『イージー・ライダー』(1969 デニス・ホッパー監督)に出ていたニコルソンさんが演じていることもあり、こちらはヒッピー世代の成れの果てのように見えてしまいます。アン・マーグレットさん演じるニコルソンさんの妻も含めて、出てくる人が皆、不幸で淋しさを抱え、孤独を埋めようともがき苦しんでいるのです。『卒業』のラストシーンを観ると、この『愛の狩人』の寂寥感も蘇ってきてしまうのです。

マイク・二コルズ監督は、ずっと後には『ハリウッドにくちづけ』(1990 マイク・二コルズ監督)で、キャリー・フィッシャーさんの自伝を映画化しています。キャリーさんは、ポール・サイモンさんと結婚したもののスピード離婚など波瀾万丈の人生でした。(『卒業』から23年、奇しくもまた「サイモン&ガーファンクル」と関わりが……)平穏無事な夫婦生活なんて題材には興味がないのでしょう。思えば、監督デビュー作も『バージニア・ウルフなんかこわくない』(1966 マイク・二コルズ監督)でした! これも2組の夫婦が嫉妬し、ののしり合い、結婚生活の不満、本音をぶつけ合うという密室劇(元は戯曲。マイク・二コルズさんも元はブロードウェイの演出家)でした。2作目が『卒業』。なるほど、デビュー作に原点があるというのはたしかですね。 (ジャッピー!編集長)