ひとつ前の当ブログで書いたように、『青春の蹉跌』(1974 神代辰巳監督)の主演にあたって、萩原健一さんは東宝に「監督は神代辰巳さんで」とご指名を出し、長谷川和彦さんの見事な脚本も相まって傑作となりました。(原作者の石川達三さんはカンカンに怒ったと言われています)  この成功に次ぎ、二人は再びタッグを組んで『アフリカの光』(1975 神代辰巳監督)を作ります。ショーケンと田中邦衛さんがアフリカ行きを目指す役で、二人の関係やうらぶれた雰囲気が『真夜中のカーボーイ』(1969 ジョン・シュレシンジャ―監督)みたいで僕の好きな映画です。

この次にショーケンと神代辰巳監督が作ったのが『もどり川』(1983 神代辰巳監督)で、ショーケンは「神代さんとの仕事の中で一番良く出来た作品」と語っています。原作は連城三紀彦さんの『戻り川心中』。連城さんはショーケンをモデルにして書いた『恋文』で直木賞を受賞されています。のちに、そのショーケン主演で『恋文』(1985 神代辰巳監督)も映画になっていますが、連城さんは先にテレビに原作を売っています。『戻り川心中』も同様にテレビが先で、土曜ワイド劇場で田村正和さんが主演でした。ショーケンはこれにファイトを燃やし、神代監督もカンヌで賞を獲ろうと気合が入りました。

萩原健一さんが扮したのは、太宰治をモデルにした作家なので、ショーケンは当時の文士の写真を集めて研究したそうです。そして、例によって、ショーケンは様々なアイデアを出して神代さんが採り入れるという形で撮り上げています。そして、ショーケンは撮影時は麻薬を使っていたと回想しています。麻薬をやっていることは、「神代さんも知っていながら黙っていたんだろうな。阿吽の呼吸、暗黙の了解だよ」と語っていますが、たしかに何かが乗り移っているような迫真の演技を見せます。

また、神代さんも演出にのめりこんで、ショーケンの妻役の藤真利子さんが胸を病んでいて吐血する場面でショーケンは台本通り背中をさすったら、神代監督「違う! 口で吸え!」と言って強烈なシーンになったといいます。いちばんスゴイのは、ショーケンが首を吊る場面で、もちろんピアノ線を付けていたのですが、それが切れて実際にショーケンの首に紐が食いこんでしまったそうです。ショーケンは「俺、逝っちゃったか」と思ったら、神代さんはにやっと笑ったといいますから、ショーケンも麻薬でもやっていないと持たなかったのかもしれません。

結局、映画公開前にショーケンは大麻取締法違反で逮捕、ひっそりと公開され、カンヌもコンペでなく特別招待作品の枠となり、神代監督念願の受賞も夢と消えてしまいました。(ジャッピー!編集長)