ひとつ前の当ブログで、昔、浅草の映画館で上映中の寅さん映画に絶妙の声がかかった話を書きました。

その作品もそうでしたが、後期の『男はつらいよ』は、満男(吉岡秀隆さん)が悩んで、それをダメ男の先輩として寅さん(渥美清さん)が励ましたり、背中を押したりという展開が多くなっていました。

そんな中で、印象に残った台詞が出てきた映画が『男はつらいよ 寅次郎物語』(1987 山田洋次監督)です。これも、お正月映画として公開したと思います。この作品は秋吉久美子さんがマドンナで、第39作目。後期の『男はつらいよ』の中でかなり上位にくる出来だと思います。

テキ屋仲間が死んで、その遺した少年を連れて実母を探し訪ねるという発端から、途中で病気になった少年の看病を通して出会った秋吉さん、というストーリーの転がり方が絶品でした。秋吉さんに合ったキャラクターだったし、3人がまるで親子のように奈良を見物して歩くシーンとか良かったなあ。見知らぬ子どものために骨をおって、心を通じ合わせる、そんな気持ちが伝わってきます。

劇中、満男が寅さんに「おじさん、人間は何のために生きているのかなあ」と問うシーンがありました。寅さんはこう言うのです。「いいか満男、あー、生まれてきて良かった、そう思うことが何べんかあるだろ、そのために生きてんじゃねえか」とこれは、ふっと名セリフを発する寅さんの中でも、シリーズ屈指の名言だと思います。僕には名言ベスト・ワンかもしれません。まったく、僕の頭の中は映画から学んだことだらけなのです。

僕は一昨年の手術、入院を経験し、そして今のコロナ禍と、死というものを意識するようになって、よくこの台詞を思い出します。「生まれてきて良かった」と思えたこと、何回ぐらいあっただろうなと考えるのです。

(ジャッピー!編集長)