当ブログ12月22日に、12月7日に亡くなった小松政夫さんのことを書きました。

小松政夫さんが出演した映画で僕の好きなものに『居酒屋兆治』(1983 降旗康男監督)があります。高倉健さんが脱サラして営む居酒屋に集まる市井の人々の悲喜交々が描かれる好篇です。健さんにねちっこく絡む伊丹十三さん、向かいの小料理屋のママ役・ちあきなおみさん、ジャージ姿の細野晴臣さん、いつも隅の席に座っている池部良さん、そして女房役の加藤登紀子さん……とキャストも良く、個人的にはこういう「ヒーロー」じゃない健さんの映画がもっと観たかったです。

この中で、小松さんはタクシーの運転手の役。この小松さんの奥さんが突然亡くなり、悲嘆にくれます。健さんと加藤登紀子さんが花を持って、お線香をあげに行きます。古いボロ家です。仏壇の横にバットが立てかけてあるのを見て、健さんが「野球やるんですか?」と訊くと、小松さんが「結婚したばかりの頃、布団が一組しかなくて、女房と足をからませないと寝られなくてね」といいます。それがクセになってしまった小松さんは「でも、今、妻がいなくなって……仕方ないからこのバットに足をからませて寝るんですよ……」と言いながら、泣き出すのです。

この場面の演技、本当に良かったなあ。真面目にコツコツと働き、暮らしてきた生活感と妻への深い愛情を見事に体現していたと思います。映画は、この小松さんの奥さんの死に対し、店の常連の伊丹十三さんが失礼なことを言います。注意をする健さんですが、伊丹さんが殴りかかってきて、ついに頭にきた健さんが伊丹さんを殴るという展開になります。かつての『網走番外地』シリーズ(1965~1972)や『昭和残侠伝』シリーズ(1965~1972)のようなヒーローではない役ですが、一瞬、それらの映画の残像が垣間見えます。

小松政夫さんは出番は多くはなかったけれど、忘れられない名演でした。サラリーマンも経験されているし、市井の片隅に生きる人の気持ちが滲み出ていました。また、小松さんの奥さんを演じた立石涼子さんも今年の8月2日に亡くなりました。ご冥福をお祈りいたします。(ジャッピー!編集長)