※警告※

本稿はアーノルド・シュワルツェネッガー主演の『ターミネーター』(以下、一作目の『ターミネーター』と表記)および『ターミネーター2』という映画のネタバレを含むので、それら2作品についてネタバレされても気にしない方のみお読みくださいませ。

 

(以下、本文)

 

一作目の『ターミネーター』では、未来からやって来た人間型殺人マシーンのターミネーターを倒すべく、ロサンゼルス在住のサラ・コナーという女性および未来からやって来たカイル・リースという男性が、「来るべき核戦争でスカイネットという人工知能が人間を支配する」という恐ろしい状態から人類を勝利させて人工知能を打倒するために人類全体のための戦いをするのだが、“Everything Wrong With The Terminator in 6 Minutes Or Less” という解説動画で“Even as a war for humanity rages, there’s always time for coitus.” (4分36秒)とツッコまれている通り[注1]、人類全体のための戦いの最中でありながら性行為におよぶ時間的余裕があるのは映画ならではのご都合主義とも言える。とはいえ、サラとカイルが性行為におよぶ事は『ターミネーター』においては必要なのだ。その理由は『ターミネーター2』を視聴すれば分かる。『ターミネーター2』ではカイルとサラの子であるジョン・コナーは10才であるが、父のカイルは既に死亡しており母のサラは精神病院に強制入院させられている。サラが強制入院させられている理由は、カイルから未来について聞かされたサラが「これから核戦争が起きて人工知能と人類が戦う事態になるので息子のジョンは優秀な軍事的指導者に育てないとならない」と言い張り、「核戦争が起こる」だの「人間型殺人マシーンが作られる」だのとさんざん言いふらしたので精神病だと思われたからである。

ここで仮に一作目の『ターミネーター』でサラがカイルの子を妊娠しなかったと仮定しよう。するとサラは誰の子を妊娠するべきなのか?考えようによっては誰の子でも良い様な気がするが、サラの心境をじっくり考えるとそうとも言えない。何故ならサラにとって自らの子どもというのは「核戦争が起きて人工知能と人類が戦う事態」になった際に必要とされる「優秀な軍事的指導者に育てないとならない」存在なのである。人類全体を救う使命感に燃ながらそんな話を頻繁にする女性とともに、子作りおよび子育てをしたいと思う男性など果たして存在するだろうか?むしろ『ターミネーター2』においてジョンが「母はいろんな男と付き合ったけど、母が核戦争の話や人間型殺人マシーンの話ばかりするのでどの男もウンザリして別れた」と言っていた様に、誰にとっても「こんな変な話ばかりする女性とは付き合えない」と思うのが当然だろう。

そうしてみると、サラが一作目の『ターミネーター』でカイルと出会う前に妊娠を(あるいはさらに出産も)していたのならともかく、一作目の『ターミネーター』で「来るべき核戦争」だの「人間型殺人マシーン」だのといった一般的に信じてもらえない話を信じた後でサラの言い分を真面目に聞いてくれる存在は、事前に「来るべき核戦争」や「人間型殺人マシーン」を知っているカイルしかいないのである!そしてサラがウェイトレスとして学費を稼いでいる女学生である以上、カイルと出会う前に妊娠しているという状態は経済的理由から考えにくい。サラがカイルと出会う前に複数の男性と性行為におよんでいたとしても、子育てできない経済状態と判断して避妊をしていると考えるのが妥当だからだ。

以上の検討から、たしかに「人類全体のための戦いの最中でありながら性行為におよぶ時間的余裕があるのはご都合主義だと言える」のだが、しかしながら一作目の『ターミネーター』でサラはカイル以外の男性の子を妊娠できない展開になっているのでカイルの子を産むしか未来の人類のためのリーダーを産む選択肢はないのである。それゆえ一作目の『ターミネーター』でサラとカイルが性行為におよぶのは、ストーリー上どうしても必要なのである。

ちなみにカイルの子であるジョンのその後であるが、10歳の頃にはグレていたものの後には人類全体のために奮闘する立派な人物になった模様なので[注2]、長い目で見れば、やはりジョンはカイルの子としてふさわしい人物と言えるのである。なお、このように子どもが親に似ることを、日本のことわざでは「カイルの子はカイル」と言うのだが、「いや、それを言うなら『カエルの子はカエル』だろ?」という声がどこからともなく聞こえてきたので、私はそろそろカエル(帰る)のである。

 

 

 

注1:

Everything Wrong With The Terminator In 6 Minutes Or Less - YouTube

 

注2:一般的に公開された『ターミネーター2』では夜の道路に車を走らせながらサラがモノローグを語るところで終わるが、元来放送する予定だったエンディングは以下の通り。