「約束 直樹(17歳)」
父が逮捕された。
父は人を殺した。
父とは何の関係も無い、相手だった…
あの日、父が運転する車で、彼をはね飛ばした、あの日までは、
本当に無関係だったんだ。
僕からみれば、父は普通のおじさんだ。
普通に仕事して、普通に帰ってくる。
息子の僕とは、会話は少なくなったけど、高校生の息子と父親なんて、そんなの普通だと、思う。
母さんとだって、多分ごく普通の夫婦だったと思う。
まぁ、何が普通なのか、まだ、17歳の僕には、よくわからない。
普通じゃ、なくなったのは、あの日、父さんが、人殺しになった日からだ。
あの日、父さんは、酒を飲んで車を運転していた。
それが、間違いだった。
事故を、起こしたんだ。
「会社員男性 酒酔い運転で
歩行者をはねる
被害者 塾講師 男性死亡‼
会社員男性を現行犯逮捕」
ニュースでは、見たことのある言葉が、僕に向かってやって来た。
テレビや、ネットニュースで見る事故は、起きては、すぐに流れさって行った様に思っていた。
実際、父さんの事故も、テレビのニュースでは、あっけないほど早く、忘れ去られた。
けれど、人殺しの息子になった
僕の世界は、変わり果てた。
僕はクラスメートの女子から
「先生を返して!」
と、泣きながら詰め寄られた。
唖然とする僕をよそに、周りの人達は
「直樹に言っても、先生は帰ってこない」
「直樹が、悪いんじゃない、悪いのは、父親だよ」
そう言って、彼女を慰め、彼女と一緒に泣いていた。
ネットでは
「○○塾の先生を殺した奴に制裁を!」
「飲酒運転とか、アル中かよ?」
「飲酒運転とかマジグズ!!」
「殺人犯だろ、住所さらせ!」
「そいつの、写真だせ!」
等の言葉たちが、暴れていた。
あの時、クラスメートの彼女に殴られていたら、少しは楽になったかもしれない。
いや、
たとえ彼女に殴られても、別の人に蹴られても、楽になんて、なれなかった だろうし、
ネットの文字たちは、次々と、襲う事を、やめなかっただろう。
僕は、嫌なのにスマホの画面から、目を背けられなくなっていたし、
母さんは、とにかく謝り通しだった。
被害者家族、被害者の恋人、父さんの会社の人、近所の人達、警察、弁護士、親戚…
僕も一緒に謝ろうとすると
「直樹、辛い思いさせてごめんね」と、
僕にまで、泣きながら謝った。
僕は、父さんが、逮捕されてから、初めて涙が出た。
よくわからないけれど、
悔しかった。
悲しかった。
父さん
家族を大切にしろって、言ったじゃないか!
人には、優しくしろって、言ったじゃないか!
ルールは、守れって、言ったじゃないか!
いつだって、俺の味方だって、言ったじゃないか!
約束は、守れって、言ったじゃないか!
父さん
どうして、僕に言った事が、
自分で、出来ないの?
どうして、ルールを守らなかったの?
どうして、僕たちを普通のままに、してくれなかったの?
僕たちの、そしてあの先生の≪普通≫を返してくれよ。
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、事故、名称等は
架空であり実在するものとは
関係ありません。
しかし、
飲酒運転をしてしまえば、
起こりうるお話しです。