おとうさん。おはよう。

  朝からと、言うより。夜中から。

  『キョッキョ、キョキョキョ。キョッキョ、キョキョキョ。』と。

   うるさいこと。

  聞いてるうちに。本当に、

  『トッキョキョカキョク』と。

   聞こえて、くるんだから。不思議だよねえ。おとうさん。

  『鳴いて血をはく、ホトトギス』と、言われるだけのこと。ありますよ。

   あんなに、鳴かれると。目が覚めて、しまうよねえ。おとうさん。

  そろそろ。夜が明けて、きたかなあ。なんて、思っていたら。

   今度は。ベランダに、お客様ですよ。クマゼミのね。

  そういえば、ねえ。おとうさん。

  「子供ん時は。よう。とりに、行ったもんじゃ。」

  「そうそう、蚊帳の中に、入れて。」

  「殻から、出てくるのを。見とったわ。」ってね。

  子ども達にも。あの、ワクワクする感動を。味わわせて、やりたくて。

   息子たちが、小さい時は。毎夜、毎夜。

   セミの、幼虫を。探しに行くのが。日課だったよねえ。

  殻から、出たてのセミは。クシャクシャの、羽なのに。

   だんだん、伸びてきて。一人前の、羽に。なるんだよね。

  カーテンの、一番下に。つかまらせて、おいても。

   気がつけば、一番上まで。のぼっててね。

   時々、昇り過ぎて、落っこちて、きたりと。

  毎晩、あきもしないで、よくやったよえ。おとうさん。

  朝になると。いっせいに、

   「セミも。朝ごはんやで。」

   「生きとるもんは。大事に、してやらんと。」って。

   おとうさんに、言われてね。

   「さようなら」って。大空に。放してやって、いたんだよね。

  夕方、買い物に行くと。ついつい。むかしを、思い出して。

   歩道の、木の幹に。目が、いって。しまうんですよね。おとうさん。

    セミの、幼虫。いるかしらってね。

   もし、帰りに。セミの幼虫を、見つけたら。

    子ども達と、やってたように。カーテンに、くっつけてね。

   二人で、思い出ばなしに。はなを、さかせましょうよ。

     ねえ。おとうさん。