おとうさん。タンスの、中に。大事に、しまってある箱。

   開けてみたら。忘れてたけど。

   息子たちの。母子手帳と、へその緒だよ。おとうさん。

  あの、へその緒で。息子たちと。つながってた時が、あるんだよね。

   思えば。不思議な、ことだよね。おとうさん。

  覚えてる。おとうさん。親とは、おかしなものでねえ。

   へその緒を、切る時。一喜一憂、したことを。

   「切り方が、わるかったら。でべそになる。」

   「バンソウコウは。ちゃんと、貼って、もろうたか。」ってね。

   オヘソの上に。はってもらった、バンソウコウにまで。

    一喜一憂、したんだよねえ。おとうさん。

  それは、そうと。ヘソと、言えば。ねえ。おとうさん。

  田舎で。ボラを、釣った時ですよ。

   じいちゃんが。

   「ボラには、なあ。ヘソが、あるんじゃ。」って。

   息子たちに、言ったから。ややこしく、なったんだよね。おとさん。

  「おとうさん。どこに。へそが、あるんじゃ。」

  「どっこも、でとらんで。」

  「ほんまやで。おとうさん。」いうてね。

   大さわぎ、したんだよね。

  それで。おとうさんが。ボラを、さばきながら。教えたんだよね。

  「あんなあ。これを。じいちゃんは。『ボラのヘソ』言うたんじゃ。」

  「これは。ボラの、胃じゃ。」

  「こうやって、料理したら。鳥の、砂肝に、みえるじゃろう。」

  「これを。『ボラのヘソ』言うんじゃ。」

  「おまえらの。腹の、ヘソとは。全然、違うんじゃ。」いうてね。

   おとうさん。教えたん、だけどね。

  何分。子供だものね。

  「じいちゃんは。ヘソ、いうた。」

  「そうやで。おとうさん。」

  「これとは。違う。」いうてね。

   なかなか。信じて、もらえなかったん。だよね。息子たちに。

  今なら。信じて、もらえるのかなあ。おとうさん。

    ねえ。おとうさん。