おとうさん。去年の、今頃。おとうさんの。思い出旅に、出て。
次男と二人で、上った。お城の、あの道。崩れて、しまったんだって。
あの山の、下の人たち。心配だよねえ。おとうさん。
我が家では。やっと。雨が、あがったと。思ったら。
太陽さんが。戻って、きましたよ。暑いよねえ。
首には。お菓子屋さんで、もらった。ミニアイスノンを、まいて。
今度は。暑さに、対抗ですよ。忙しい、一日ですよ。きょうは、ねえ。
たまった洗濯物を、していて。ふと、思ったんだけど。
『おとうさん。今。どうしてるんで、しょうかねえ。』ってね。
ふつうは。おとうさんの、好きだった。着物とか。服とかを、ねえ。
棺に、入れて。あげるん、だけどね。
それどころじゃあ、なかったもんね。おとうさん。あの時は。
おまけに。我が家らしい。お葬式を、したもんだから。
病院で。着せて、もらっていた。あの、浴衣だって。
「この、浴衣の、はし。ちょっと、もらって。」いうてね。
「これで。お守り、作るからって。」
「おとうさん。ごめんね。」いうて。
切って。もらって、きたんだものね。
あの世で。
「えらい、破けた浴衣や、なあ。」って。
神様か、閻魔様か。分からないんだ、けれど。いわれたり、していてね。
「いまごろ。心配して、くれても。遅い。」って。
おとうさんには。いわれそうだ、けどね。
でもね。おとうさんが。我が家で、着ていた。浴衣も、帯も。
ちゃんと。手入れして、おくからね。
着替えた、かったら。帰って、おいでよね。おとうさん。
そうそう。おとうさん、愛用の。センスだって。
ちゃんと、しまって。あるからね。
ついでに。持って行くと、いいよ。おとうさん。
夏は。お化けの、季節と。言うんだからね。
せめて。一度くらいは。顔を、見せに。帰って、きてよね。
まって、いますからね。 ねえ、おとさん。