あれから何年経ったのか。
あの後、同じように数回会った。いつもなにかがおわって、はじまる時だった気もする。
「ねえ、キスして。」
「目は閉じるなよ。」
小さく笑った。
「あと、おまえの中にいるそいつのことは、今だけ忘れろ。」
「はじまりだよね?」
「馬鹿、こんな時くらい、素直になれって!」
「うん。」
「たまにはそっちからこいよ。」
そう言って男が笑ったら、泣きたくなった。
あの夜、壁に掛かっていた絵画のような月が出ていた。まるで、絵の中から盗んで貼りつけたような月だった。
ぎこちなく、わたしからキスしたら男はちょっと照れて、笑った。
三日月くらいがちょうどいい。そう思った。
「わたし、ずるいよね?」
「心配するな、俺もずるいから。」
そんな男を愛しいと思った。
「今夜は、本物のおまえに会える気がする。」
「ん。それって。」
「もし、そうなら。」
まだ、触れられていないのにビクンとした。
「なんか、キュンってした。」
「おまえって、子宮で考える女の典型みたいだよな。」
「初めての女って忘れない?」
「さあ?」
いつもより強く抱きしめられる。
「素直になれよ。」
「うん。」
「おまえ、好きな奴としかしない主義だろ?無理するなよ。」
「うん。ごめん。」
「謝るなって。」
「ごめん。」
「馬鹿、もうなにも言うな。」
「ごめん。」
「しょうがないな。じゃーしばらく月の存在理由でも考えておけ。そのうち、なにも考えられないようにしてやるよ。」
まるで蛹の中にいるように男に包まれる。
「やっぱり、欲しい。」
男の心音がちょっぴり強くなった気がした。
窓から覗く月がゆっくり欠けてゆく。そうだ、今夜は月蝕。どんなこともありえる夜なのだ。
いつもより強く抱きしめられた気がする。
あと少しで月がなくなる。あと少しで…。