●ルカ福音書 (田川訳新約聖書の解説より)
これもマルコ+Q資料+他の断片的資料の組み合わせ。著者は極めて確かにパウロの伝道旅行の協力者。使徒行伝16:10‐17ほかに出てくる「我々」の一人。つまりパウロの第二回伝道旅行の一部、第三回伝道旅行の最後のエルサレム行き、そしてパウロがローマに護送される旅の、同行かつ支援者。もしかするとパウロのフィレモン書24節に出てくるルカと同一人物であるかもしれないし、そうでないかもしれない。パウロの協力者であるから、ドグマ的にはある程度パウロの影響がみられるが、文章は、どちらかというと、非主体的に(ないしあまりパウロ教に片寄らずに)、手にした資料や聞いた話を適当に要約して書いている。フィリポイの町を仕事の拠点の一つとしていた。どこかのヘレニズム都市出身の非ユダヤ人。ギリシャ語はマルコよりもかなり上手だが、しかしけっこう多く、根っからのギリシャ語文化人とは考えられない崩れたギリシャ語も出て来る。執筆年代はマタイより少し早いか。執筆の場所は不明。
いわゆるQ資料
近代になって学者たちが、マタイとルカはマルコ福音書以外にもう一つ別の共通資料を利用したのではなかろうか、と言い出した。実際、両者のテクストを比べて見れば、そのことは疑う余地なく確かである。ドイツ語の学者たちがこれをあだ名で「Q資料」(Q-Quelle)と呼ぶことになさった。QはQuelle(資料)という語の頭文字をとっただけのこと。ただしこれは、これが一つのまとまった文章で、マルコ以外にマタイとルカに共通する箇所はすべてこの文書に由来する、などということを示す根拠はどこにも見つからないのだ。更に、すべてが文書資料だったとも言えず、一部は口伝の伝承がばらばらに伝わった可能性もある。いずれにせよこの「資料」は複数の由来のものであろう。それも二つではなく、いくつもの。また、どういう人々がそれを伝えていたかも、まったくわからない。
WTにおけるルカ福音書の解説 (洞察‐2、p1193-1195 「ルカによる良いたより」の項より)
おもにイエスの地上における宣教中の出来事を物語る記述。その目的は,論理的な順序で書いた正確な記録を提出して,テオフィロが口伝えに教えられていた事柄の確かさを証拠だてることにありました。(ルカ 1:3,4)この記録は,聖書正典の一部となっていることからも分かるように,ユダヤ人と非ユダヤ人を問わず,他の多くの人の益ともなるはずでした。この福音書は,主題別の配列になっているように思える箇所もありますが,全体的には物事の起きた順に記されています。
筆者,および書かれた時期 この書の中に名前は出ていませんが,一般にこの物語の筆者と信じられてきたのは医者ルカ(コロ 4:14)です。この事実を示すものとして,早くも西暦2世紀の書き記された証拠があります。ムラトーリ断片(西暦170年ごろ)の中で,この福音書はルカが書いたとされているのです。この福音書の幾つかの面も,十分な教育を受けた医者が筆者であった証拠とみなせるでしょう。この書に見られる語彙は,他の三つの福音書を合わせた数よりも豊富です。イエスがいやした種々の病気についての説明は,しばしば他の書の中の説明より具体的です。―マタ 8:14; マル 1:30; ルカ 4:38; マタ 8:2; マル 1:40; ルカ 5:12と比較。
ルカは「使徒たちの活動」の書を書く前にこの福音書を完成させたものと思われます。(使徒 1:1,2)ルカは使徒パウロの第3回宣教旅行の最後の行程でパウロに付き添ってエルサレムまで行きましたから(使徒 21:15‐17),神のみ子が活動されたまさにその土地で,イエス・キリストに関する事柄を正確にたどる良い立場にいたことになるでしょう。パウロがエルサレムで捕縛されたあと,また後にパウロがカエサレアで投獄されていた間,ルカには目撃者たちと会見したり,記録類を調べたりする機会が多くあったことでしょう。したがって,この福音書はパウロがカエサレアで約2年間監禁されていた時にそこで(西暦56‐58年ごろ)書かれたのではないか,と結論するのは妥当です。―使徒 21:30‐33; 23:26‐35; 24:27。
特異な点 ルカの記述は,他の三つの福音書の場合と同様,イエスが確かにキリスト,神のみ子である豊富な証拠を提供しています。また,イエスが祈りの人,つまりご自分の天の父に全く頼る方であったことを明らかにしています。(ルカ 3:21; 6:12‐16; 11:1; 23:46)この書には非常に多くの補足的な詳細情報が収められており,他の三つの福音書に記されている事柄と合わせれば,キリスト・イエスに関連した様々な出来事をより完全に描写するものとなります。1章と2章には,他の福音書の中にそれと並行した記述はほとんどありません。少なくとも六つの特定の奇跡とその2倍余りの数の例えはこの書にしか記されていません。その奇跡とは,イエスが弟子の幾人かに奇跡的な漁獲を得させたこと(5:1‐6),ナインで,あるやもめの息子をよみがえらせたこと(7:11‐15),体の折れ曲がっていた女の人(13:11‐13),水腫を患っていた男の人(14:1‐4),10人のらい病人(17:12‐14),および大祭司の奴隷の耳(22:50,51)をいやされたことです。例えとしては,二人の債務者(7:41‐47),隣人愛を示したサマリア人(10:30‐35),実を結ばないいちじくの木(13:6‐9),盛大な晩さん(14:16‐24),失われたドラクマ硬貨(15:8,9),放とう息子(15:11‐32),不義な家令(16:1‐8),富んだ人とラザロ(16:19‐31),やもめと不義な裁き人(18:1‐8)などがあります。
この福音書に載せられている年代資料は,バプテスマを施す人ヨハネとイエスが生まれた時期や,それぞれが宣教を始めた時期を確定するのに役立っています。―ルカ 1:24‐27; 2:1‐7; 3:1,2,23。「登録」を参照。
信ぴょう性 ルカの福音書の信ぴょう性,および聖書の他の書との調和を示しているのは,この書に含まれている数多くのヘブライ語聖書への言及や,ヘブライ語聖書から引用されている数々の言葉です。(ルカ 2:22‐24; 出 13:2; レビ 12:8; ルカ 3:3‐6; イザ 40:3‐5; ルカ 7:27; マラ 3:1; ルカ 4:4,8,12; 申 8:3; 6:13,16; ルカ 4:18,19; イザ 61:1,2と比較。)この書の信ぴょう性の一層強力な証しとなっているのは,エルサレムとその神殿の滅びに関するイエスの預言が成就したことです。―ルカ 19:41‐44; 21:5,6。
ルカ福音書に関して、「論理的な順序で書いた正確な記録を提出して」いるとしていながら、次の文では、「主題別の配列になっているように思える箇所もありますが、全体的には物事の起きた順に記されています」とのこと。
つまり、すべてが物事の起きた順で書かれているわけではなく、時間的流れとは無関係に主題別にまとめた個所が含まれている。それでも、「論理的な順序で書いた正確な記録」であるという解説である。
「エルサレムとその神殿の滅びに関するイエスの預言の成就」を信憑性の強力な証拠して挙げており、56‐58年ごろ書かれたものとしている。
マタイが終末預言の成就の一つとして挙げている「ゼカリア」に関する預言が、ルカの並行記述にある。この「ゼカリア」が誰であるかを見極めることにより、ルカ福音書はマタイ福音書と同じように、70年以降に書かれたものであることが理解できる。
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