2021.12.19 文中の表2を差し替えました。具体的には、主な放送・配信媒体に楽天TVを追加しました。

 

 以前から、タイBLドラマのYoutubeの公式動画に採用されていた日本語字幕が消去されたり、突如ジオブロックされたり、Twitterのタイ沼界隈ではザワザワすることが度々起きています。先日も、ジオブロに関する議論が再燃していたようです。私も思うところはあるので、呟きで終わらせてしまうより、一旦ブログにまとめたほうが良いかもしれないと思い、まとめました。

 

 この記事では、大体下記の流れでお話をしたいと思います。この記事が、タイドラマの作り手や届け手の方々、タイドラマのファンの方々にとって少しでも参考になれば幸いです。しかし、これはあくまで私個人の見解であり、ドラマを作っている人たちや視聴者の総意というわけではありません。また、状況に応じてこの見解は変わる可能性があります。ですから、この記事に書いてあることを根拠に会社や個人を攻撃するようなことはしないでほしいということを、ここにお願いいたします。

 

 長いので、結論だけ読みたい方は一番下までずずいとどうぞ。

 

目次

  • 現状の放送・配信の視聴者層(半分推測)
  • タイドラマの視聴者層と行動(観測範囲内)
  • 現状のタイドラマとジオブロなどの状況
  • タイドラマにジオブロすることは、本当にタイドラマの普及・発展に繋がるか
  • 有料配信におけるタイドラマのファンサブ削除に関する考察と見解

現状の放送・配信の視聴者層

 現在、日本ではテレビ離れが叫ばれています。総務省の情報通信白書を見ると、テレビをリアルタイム視聴しているのは、10-20代だと60%台である一方、インターネットを利用しているのは90%にも上ることがわかります。40代までも、数値こそ違えども、インターネット利用の方が多いことがわかります。利用時間でいえば、テレビ<インターネットであるのは10代と20代だけですが、それでも、テレビに割く時間や人口の割合が数年で減ってきている一方でインターネット利用は増えているという傾向は明白です。

 

 もちろん、このインターネット利用のうち何パーセントがタイドラマを見るのか、というのはわかりませんが、傾向として、テレビよりもインターネットを利用する割合の方が多いということは言えます。

 

参考:総務省 令和2年版 情報通信白書:

 

 

 これを踏まえて、下記の表2をご覧ください。(表1は話の順番の都合で後に出てきます。)現在、タイドラマが日本においてどのような放送・配信媒体で提供されているか、主なものを一覧としています。従来の形が黒枠で囲った部分で、現在日本での放送・配信でタイドラマに力を入れているところをオレンジ枠で囲っています。どこがいいとか悪いとかではなく、どういう戦略をとるのかなので、作品をどういった層にどういう目的で届けたいかに依存するでしょう。その目的などをきちんと設定して手段を選んでいるかは疑問を感じますが。

 

 たとえばLaLaTVや衛星劇場, WOWOWはCS/BSで、そこそこ力を入れて人気作を放送しています。しかし、一視聴者として、月額価格は重要です。切実です。必要な環境も重要です。残念なことに、CS/BSというのは環境依存が大きくかつ値段がかなり高いです。世帯換算にはなりますが、チャンネルの加入数のデータから見ると、日本の人口の約10%しかありません。かつ、そのうちのいったい何パーセントがタイドラマの視聴者層なのか、疑問を感じます。ただし、CS/BSは価格が高いことからも推測できる通り、比較的裕福な層が加入していることが考えられます。結果として、CS/BSでの放送に力を入れることにより、他と比べて購買行動を積極的に行う消費者にアプローチをかけやすいというメリットがあると考えられます。

 

 CS/BSと比較すると、U-NEXTが次に高価ではありますが、ここは品揃えが非常に良く、見放題作品も多数あります。ネットがあればどこでもみられるというメリットもあります。利用している割合はどれほどかわかりませんが、ここが強くなってくると、視聴者としても視聴媒体をタイドラマに限っては一本化することができます。値段は高いですが。一方で、ここはイベントなどはあまり力を入れていないようです。他に、似たようなところとしては楽天TVがあると思います。ここは品揃えはあまり豊富ではありませんが、一括購入できるところが魅力の一つです。推し作品に貢いだ!という感覚になりますね。

 

 次に、TELASAです。ここはお手頃価格ではありますが、テレビ朝日とKDDIが合弁で設立したところがやっていて、テレビ朝日がGMM TVと業務提携したのもあって配信作品はGMM TV 作品を中心にタイドラマの人気作やその出演者のバラエティ作品が中心です。他の作品が好きな人にとってはあまり魅力的に見えません。が、ここで配信されることにより、従来のタイドラマ視聴者層だけでなく、様々な層にアプローチできる可能性があります。また、関連イベントなどが積極的に行われているのもポイントの一つと考えられます。

 

 最後に、YoutubeやLINE TVなどの従来の形についてです。つい最近、LINE TVがタイでの配信から撤退するという話がありました。なので、今後はあまりないかもしれませんが、一応記載しています。品揃えを4->3としているのは、ジオブロック(後述)などで視聴できる作品が減ってきているからです。Youtubeは基本的に世界に開けているため、たくさんの視聴者に届けられる可能性があります。一方で、無料で視聴できてしまうため、制作会社からすると実はそんなに旨みがない方法なのではないでしょうか。特に人気作であればあるほど、です。しかし、視聴者はこれまで見ることができていたので、突然その権利が失われると、「途中まで見てたのに!」であったり、「(ジオブロをするような)そんな会社にお金を払うなんて嫌だ」と考える人も出てきます。既得権益を失いたくないというのはどこの世界でも同じではないでしょうか。ここに、ジオブロに関するめんどくささがあると思います。

 

 ここまで紹介してきた媒体は、最後以外は基本的にどこも「ここでしか観られない作品」があります。そうじゃなきゃ競合に負けてしまいますからね。会社間で考えるならそれはそうだろうという感じではあるのですが、視聴者からすると、観たい作品が散らばってしまいます。この記事の後半でも述べますが、結果として「どの媒体を使うか」=「どの作品を見るか」になってしまっているわけです。さらに言えば、単純な興味だけで見るにはハードルが高く、それは、これまでの状況とは異なりますし、視聴者からすればお金がかかる一方でメリットがあまりありません。

 

 ここまで、日本の放送・配信に関する状況と、タイドラマが現在どのような媒体で放送・配信されているかなどを確認してきました。次は、タイドラマは一体どういった層が視聴しているのか、観測範囲内にはなりますが、視聴者層と行動について整理していきます。

タイドラマの視聴者層と行動(観測範囲内)

 タイドラマを視聴する人々は、どういう行動をとるのでしょうか。何を好み、何を重要視するのでしょうか。年齢層は? 身分は?
 
 こういった情報を、おそらく上記の放送・配信業者はある程度把握しているはずです。その上で、ビジネスですからお金になるところを選んでいると考えられます。そこで、私はタイドラマの視聴者層やその行動について、考えてみることにしました。結果は下記の通りです。残念ながら、考察の元となるものは私の観測範囲内でしかないです。ですので、もしかすると私の知らないところ・見えないところでもっと別の視聴者層や行動を取る方々がいるかもしれませんが、とりあえず観測範囲内では下記のようになりました。

視聴者層(観測範囲内)

  • 性別:女性が6-8割、そのほか男性やその他の性別の方も。
  • 身分
    • (高齢者や主婦・主夫以外の)無職または学生
      • 10代(未成年含む)くらい
      • 子育てや就職などの労働はしていないという意味
      • 10人に1-2人くらい
    • 子供はおらず就職している人
      • 10人に3-4人くらい
    • 子供がいるかつ就職はしていない人
      • 10人に2-3人くらい
    • 子供がいるかつ就職している人
      • 10人に3-4人くらい
    • 高齢者
      • 10人に0-1人くらい
  • 購買行動
    • 配信サービス加入状況
      • 有料配信サービス等に全く加入していない
        • 10人に1-2人くらい
      • 1つ加入している or 複数を渡り歩き、重なる期間がない
        • 10人に8-9人くらい
      • 複数あるが、3つ以上はみたい作品に応じてやめたり加入したりする
        • 10人に0-1人くらい
    • レンタルor購入
      • 一括購入(約5,000円/作品)
        → 推しの出演作ならコレという方も多そう
      • レンタル(約2,500円/作品)
    • グッズ購入・FCへの寄付
      • 誕生日イベントであれば、平均10,000円/人 !?
      • BOXセット購入(送料込みで10,000-20,000円くらい?)
      • その他 イベント等で10,000-20,000円くらい?もっといくかも
    • その他
  • 好み
    • BL?
      • もともとBLが好き
      • BLに拘らず、良作が好き
    • アイドル?
      • かっこいい, かわいいなど見目麗しい男性が好き
    • その他
 大体の割合がわかるところは書きました。
 視聴者層としては、感覚的にはアイドルオタクとか舞台俳優オタクとかと被ってます。もちろんそうじゃなくて、コアなファンというか、ミーハーじゃない人というか、専門家寄りの人とか、うまく言えないですけどそういう方々もいます。

行動

  1. 作品を視聴する

    • リアルタイム視聴で、Twitterなどでファン同士交流する

    • 有料配信サイトで見る

    • VPNなどを使用して、無料で見る

  2. 視聴感想を表現する

    • Twitterで呟く

    • ブログに書く

  3. 作品の二次創作を行う

    • 漫画

    • 小説

    • 音楽

  4. 俳優や作品を支援する

    • 推しの出演作を見る・購入する

    • グッズを買う

    • 布教シートを作る

    • FCなどを介して、フードサポートや寄付を行う

    • ボランティアで字幕(ファンサブ)を作成する

    • ヒット作・話題作を発掘しようとする

  5. 推しを理解しようとする

    • タイ語を勉強する

    • 推しの発言・行動をチェックする

    • タイ旅行に行く

  6. 他のファンと繋がる

    • ファン同士の交流を企画する

      • 同時視聴会

      • オフ会

    • プロフィールなどで好きな作品を発信する

 これらの行動の中で、日本の配信・放送会社にとってお金につながるものは、1の視聴行動と2です。また、作品を作っている(売っている)タイの会社にとってお金に繋がるものは、1、2と4です。2は、一見お金につながりそうにないですが、2によって1が増える可能性もあるので、一概に全く関係がないとは言えない状況です。5は、タイ語の普及・教育活動を行なっている団体や会社、旅行会社、もっと言えばタイ経済にとっては嬉しい行動となりそうです。

現状のタイドラマとジオブロなどの状況

 2021年になって、タイドラマが日本で(日本にある会社を経由して?)放送や配信されることが増えてきました。
 
 これまでもYoutubeなどで視聴はできたのですが、特に2020年の春にファンによるタイドラマの紹介をまとめたシートのツイートがバズったことが、タイドラマがより広く認知されるきっかけとなったようです。そしてそこから、日本の放送会社や配信会社での放送・配信が活発化してきています。
 
 特に、2getherはTwitterの世界トレンド一位を獲得したという実績があるのはもちろん、作品自体もクオリティが高く、多くの人の支持や口コミが広がりやすいストーリー展開だったこと、キャスト陣の見た目がよかったことなど複数の要因が相まって話題となりました。そして話題となっただけでなく、雑誌やテレビ番組でも取り上げられ、遂には日本の地上波での放送まで漕ぎ着け、それによりさらに多くのファンを獲得するという成功路線に入った例と考えられます。
 
 ただし、タイのドラマは2getherだけではありません。BLに限定しても、様々な作品が様々な会社で制作され、テイストやテーマも様々です。キャストも私が知っているだけで400人を超えます。ジャンルをBLに限定しなければ、もっとたくさんあります。
 
 そのような多種多様な作品があるタイドラマですが、最近はたびたび「ジオブロ(注1)」という措置が行われています。私自身はタイドラマを視聴するようになってからまだ一年半ほどなのですが、私が視聴し始める前すなわちタイドラマが話題になる前、タイドラマはジオブロとはあまり縁がなかったそうです。つまり、Youtubeなどで無料で視聴できたわけです。ですが、今はそうじゃない、つまり無料では視聴できない作品の方が多いといっても過言ではない状況となっています。
 
 では、現在のタイドラマとジオブロ・日本における放送・配信の状況はどのようになっているのでしょうか。表1は、現在私が把握している範囲内での作品の状況についてまとめたものです。無料のものを含め、全て何らかの形で日本語字幕がある想定です。縦の1列分に状況パターンを、横の行はステークホルダーを記載していて、各セルにはそれぞれのパターンで考えられるステークホルダーにとってのメリットデメリットや考えられうる行動について記載しています。
 
 表の青枠で囲っている部分が、私が知っている主な作品の配信形態です。一番右のパターンは従来のものですね。
 
 表の赤枠は、観測範囲内でのタイ沼の人々の行動から、視聴者層として分厚い部分を推測したものです。もちろん、こういう行動にならない人もいると思いますが、見えている限りだとだいたいこんな感じです。
注1: ジオブロというのは、ジオブロックの略で(正式名称ではありません。Twitterなどで話をする際にこのように略して話されています。)特定の地域から見ることができないように制限する技術のことです。

タイドラマにジオブロすることは、本当にタイドラマの普及・発展に繋がるか

 表を書いていて気がついたことがあります。それは、やはり視聴者と日本の放送・配信会社だとどうしてもトレードオフになりがちということです。具体的には、視聴者にとって都合が良いのは安く手軽に見れることですが、それだとコンテンツの放送・配信側は困ります。制作側はグッズやDVDの売り上げよりも視聴のために支払われるお金が大きければ、視聴方法の有料化という方法を取ることになると思います。なので、落とし所として最近は左から2番目の策を取ることが多いのではないかと思ったのです。
 
 ですが、長い目で見た時に、左から2番目の策は果たして「良い」のでしょうか。
 
 良いかどうか判断するには、目的を設定する必要があります。会社にとって、1番の目的は利益を上げることです。なので、会社にとっては利益幅が大きくなる手段を選びたいものです。一方、視聴者にとってはどうでしょうか。これは会社ほど単純ではありません。コンテンツを安く手軽に楽しむことを目的とする人もいれば、自分にとっての良作には投資を惜しまない人もいるし、タイドラマ自体の魅力を発信したい人もいます。
 
 仮に、視聴者の目的=「コンテンツを安く手軽に楽しむこと」とする場合、そういう視聴者がグッズやDVDにお金を落とす可能性はどれくらいあるでしょうか。私は、本屋で立ち読みする人々や海賊版の漫画やアニメを楽しむ人たちがいる現状を考えると、こういう人は多くないかもしれないけれど、少なくもないし、お金もあまり落としていってくれないだろうなと感じます。しかし、こういうライトな層は単純な興味だけで見てくれ、感想を呟くなどはやってくれることも多いものです。つまり、認知度を広げて、より購買意欲の高い層にアプローチする手段の一つともなるのではないでしょうか。
 
 では、視聴者の目的=「タイドラマ自体の魅力を発信する」とする場合はどうでしょうか。この人たちの場合は、自身もファンである可能性が高く、購買行動も積極的なのではないでしょうか。中には、コンテンツの魅力を発信するには、たくさん見る必要があると考える人もいます。そのような人は、現状のように見たい作品が散らばっていると、様々な媒体で見ざるを得なくなり、結果として「どの媒体を使うか」=「どの作品を見るか」になってしまいます。見なければ、良いかどうかも評価できませんし、今のような状況では、積極的にタイドラマを広めたいと考えていても、最初の単純な興味だけで見てくれる層に働きかけることがやや難しくなります。それはつまり、ご新規さんを呼ぶことが難しくなることを意味しています。
 
 次に、視聴者の目的=「推しを応援すること」とする場合を考えてみたいと思います。このような方は、購買行動も積極的な可能性が非常に高いです。視聴者の目的=「タイドラマ自体の魅力を発信する」とする場合と行動としては若干被りますが、異なるのは、特定の推しがいる場合は新たにハマる先を探すことが少ない傾向にあるということです。所持金も時間も有限である中、新しいものに手を出せる余裕はなかなか出ないと考えられます。友達が応援しているからと興味を持つ人がいないわけじゃないでしょうが、それでもライト層に布教するのは、今のような状況では難しいと言わざるを得ないでしょう。
 
 つまり、どういう目的であるにせよ、視聴者にとって今の状況は「新規開拓しにくい」というデメリットを持っているのです。果たしてそれは、企業にとっても喜ばしいことなのでしょうか。少なくとも、私にはそうは思えません。なぜなら、人の関心は時とともに薄れていくからです。新規開拓ができなければ、継続的に投資してくれる人は減るのではないでしょうか。ここが、タイ沼のファンの多くが焦りを感じ、反対意見を述べる理由だと私は思いました。
 
 さらに、忘れてはならないのはこれまでの流れです。視聴者はこれまで、Youtubeなどの無料媒体で見ることができていました。それが突然失われたとき、あなたならどう思うでしょうか。感覚としては、民放の地上デジタル放送が今まで無料で見られたものが、ある日突然、全然違うところで、例えば映画館やケーブルテレビなどの有料媒体でしか見られなくなったらどうしますか?
 
 移行してまで見る人もいるとは思います。それだけの価値があると思えば人は動くかもしれません。でも多くの人は、面倒だから選択しなくなるのではないでしょうか。そして、事前告知がなければ、いきなり有料に移行したことに怒らないでしょうか? 嫌な印象を抱かないでしょうか?
 
 実際にどのような行動に出るのか、残念ながら私はデータなどの根拠を示せません。探せば研究している人はいるかもしれませんが、あいにく詳しくないのでわかりません。ジオブロで確実に離れる人がいることは想像がつきますが、その数が無視できないほどに多いかどうかは、私には示せないのです。それでも、観測範囲内では「無料」だからタイドラマを視聴し始めた人はたくさんいます。映画を見るか民放の(無料の)テレビドラマを見るかを選ぶのと同じような感覚です。その中で、いい印象を持っていない媒体をあえて選びますか?
 
 このことを考えると、私は「ジオブロ」という手段は、放送・配信を行う企業にとってもあまり賢い方法だとはどうしても思えません。それでも、ジオブロをした方が企業にとってはいいのかもしれませんが、その主張をするには、今の市場規模はあまりに小さいように思えます。あくまで直感でしかないのですけれど。
 
 では、放送・配信を行う企業にとっても、制作会社にとっても、視聴者にとってもウィンウィンになる手段というものは果たして存在しないのでしょうか。
 
 一見、表を見る限り、存在しないように見えます。(MECEになるように分類したはずなのですが、違ったらごめんなさい。)ですが、私は右から2番目のパターンにおいて、一つの可能性を感じています。
 
 具体的には、ライト層にお金を落としてもらうのはある程度諦めるとして、ある程度ファンになっている人には、有料媒体にもお金を払ってもらえるようにすればいいのです。有料媒体を選択することによるインセンティブを得られるようにするというか。
 
 例えば、配信という形態ではなく、DVDのみで販売している場合なら、話は比較的簡単だと思います。オリジナルグッズをつければいいから。問題は配信などの場合です。これについて私が思い付いているアイデアは、推しがいる人をターゲットとして、出演者のサインを得る機会があるとか(抽選にした方がいいとは思うけど)、限定配信のコンテンツを増やし、かつ、裾野は広げやすいように、最低限のところまでは無料で見られるようにするという方法。例えば、作品の半ばまでは無料だけど後半は有料にするでもいいし、作品は無料だけど、スペシャルコンテンツは有料とか、加入者限定のコンサートチケットとか。ただしそのインセンティブは、既存の権利のプラスアルファになるべきです。既存の権利を奪って、その権利を得るにはお金を払えというのは、先にも述べたように印象を悪化させる可能性が高いです。

有料配信におけるタイドラマのファンサブ削除に関する考察と見解

 最後に、無料配信を行なっている場合のタイドラマの字幕(ファンサブ)の削除に関しても言及しておきたいと思います。
 
 現象としては、「有料配信が始まったので、無料配信している方では日本語字幕を削除して、日本語字幕で見たければ有料配信で見てね」というふうにするというものを想定しています。
 
 問題は残念ながら日本人の多くが英語やタイ語はわからない或いは理解に労力がかかるという点です。ここに、問題を複雑化(?)させる要因の一つがあるように思います。字幕の有無によって、ライト層への訴求力が全然違うんですよね。
 
 個人的には、有料配信で字幕があるとしても、ファンサブは残しておいていいと思います。ライト層の確保を継続的にしていった方が良いのではという考えがあるからと、「日本語字幕で見れる」という利点を超えるインセンティブを有料配信で打ち出せば良いと思うからです。(難しいかもですが。)
 
 その他、無料でも残しておくべきと思う理由はいくつかあります。非日本語話者による勉強に使用できるということや、外国にいる日本語話者にとってのツールを奪うことになりかねないということ(外国に滞在できるくらいなら英語がある程度できるから不便ではない可能性もあります)があります。それから、度々言及してますが、既得権益の無効化による反発心や印象の悪化が懸念されることも理由の一つです。
 
 既得権益の無効化を避ける方法としては、作品発表時から日本語字幕での視聴は有料でのみ可能とするというものがあります。個人的には、この方法は新しい作品においては有効だと思っていますし、賛成です。この場合においても視聴者側の回避策があるから、ですが。
 
 現時点で、Youtubeではコンテンツ配信者の許可なしに字幕をつけることはできませんが、外部のサイトを利用することで配信者の許可なしに字幕をつける方法があります。この外部サイトを利用する場合、一応Youtubeの元コンテンツの再生回数等に貢献することができるという話のようではありますが、本当かどうかは定かではありませんし、安全性の面でも視聴者側のリスクがある可能性があります。(ないともあるとも言い切れないので、こういう表現をしています。)とはいえ、ライトに観たい層へ手を伸ばす手段としては、十分だと考えます。
 
 そういったリスクを取らずに観れる方法として、有料の日本語字幕付き配信を行うというのは、個人的には良い方法だと感じています。ただし、外部サイトの字幕や元々の動画についている日本語字幕を削除する行動は(字幕作成者本人が行うわけでなければ)印象を悪化させる悪手の一つと考えますので、やはり「これまでその作品はどうだったか」と「裾野を広げやすいか」というのがポイントになるのではないでしょうか。

さいごに

 放送・配信を行う企業には、作品がどういった目的でどういう層にアプローチしたいのか、を踏まえて媒体を選んで欲しいと思います。そして、継続的なタイドラマの普及や発展につなげるには、ライト層への訴求力が必要ではないでしょうか。裾野を広げる手段としての無料配信や日本語字幕といった手段を奪うのは、長い目で見たときに果たして良いことでしょうか。コンテンツを視聴するきっかけは人それぞれですが、有料でもと思うにはまず作品自体の良さを感じなければ難しいです。まず作品や俳優の良さを知っている人が多くなって初めて、有料でという手段が生まれるように思います。知って貰えれば、投資を行なってくれる可能性がある、そういう力をもった作品や俳優さんがタイにも多くあると思います。もっと多くの人に知られる機会を、放送・配信を担っている会社は作っていってください。それができる力が、あるはずです。そしてその「知る機会を作る」行動がファンに頼らずともできるようになって初めて、裾野を広げる手段をファンから奪うことができるのではないでしょうか。
 
12/10 追記:作品には対価を支払うのが当たり前とするべき、というのは私も思っていますし、「裾野を広げる」方法は無料視聴だけではないと思います。要は、裾野を広げやすい環境であれば良いのです。そこが解決されれば、有料での視聴に限定されても問題ないと思います。例えば全国規模の地上波放送なら布教のきっかけにしやすいですし。ただ、現状は作品や購入した会社によって差が出てしまっていることと、新しい人が知る機会が以前より減ってしまっている(ようにみえる)ことが問題と考えます。もちろん、今の状態でも工夫すれば広まるかもしれないのですが、その方法があまり知られていないということは課題の一つではないでしょうか。個人的には、「Don't Say No」はウィンウィンがある程度実現されている一つの形と考えています。この作品はキャスト陣によるリアクション映像をYoutubeで無料公開しており、ここがフックとなって布教しやすくなっているのではと考えています。また、ほぼリアルタイムで観られるように有料での配信日時を設定していたことやリアルタイムではないけれど気になっていた人が見られるように有料での視聴手段が複数用意されたこと、繰り返し見たい人には購入するという手段が用意されていることなどもポイントと考えます。
 
12/11 追記:裾野の広げやすさにこだわる理由の一つは、タイBLドラマの多くが差別などの社会問題に言及しており、価値観や視野を広げる一助になり、そして若い人にこそそういうコンテンツに触れて欲しいと願う気持ちがあることだと、他の方のツイートを見ていて気が付きました。私自身もその気持ちは持っていますし、作品自体も若い世代向けに作られているように見えますので、製作者の意図としても同様なのではないでしょうか。初めの方にも述べましたが、結局、その作品は一体何を意図しているか誰に見て欲しいと思っているのか、娯楽だけではない意図が含まれる作品に対して、適切な戦略をとって欲しいと考えます。