欧州主要リーグの冬の移籍市場は日本代表DF長友佑都のインテルミラノへの電撃移籍で1月末に幕を閉じた。アジア・カップで優勝した日本代表の中心を担ったFW岡崎慎司ら北京五輪世代の海外挑戦が相次ぐ中、日本選手の「0円移籍」が話題となっており、欧州のクラブからは、タダで選手を獲得できる“おいしい”市場と見られている。選手の夢の実現のため海外移籍に寛容な姿勢を示していた国内クラブも、見返りなしの移籍が続けば経営悪化を招き、Jリーグ自体が空洞化する懸念も浮上している。(サッカー取材班)
 昨年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会で日本は16強入り。W杯後には格安な移籍金(育成補償金含む)でドルトムントに移った香川真司が活躍したことでオファーが増え、北京五輪世代を中心に海外移籍に拍車がかかった。

 今冬、保有権を持っていたG大阪から元日本代表MF家長昭博がマジョルカ(スペイン)に移ったのをはじめ、日本代表DF槙野智章が広島からケルン(ドイツ)、元日本代表DF安田理大がG大阪からフィテッセ(オランダ)に、いずれも「0円移籍」した。

 欧州では、主力選手が他クラブに引き抜かれないように複数年契約を結ぶのが通常で、契約期間中の移籍の場合は、移籍先クラブは移籍元クラブに多額の違約金を移籍金名目で支払うのが一般的となっている。

 Jリーグクラブの場合、これまで多額の資金を必要とする複数年契約を避け、単年契約を結ぶのが主流だった。年齢によって一定の移籍金が発生する日本独自の制度があったためだ。しかし、昨オフから国際基準に沿った新移籍制度がスタート。契約が満了すれば、自由にクラブを移れるようになったため、各クラブは複数年契約への移行を図っているが、海外志望の選手は複数年契約を嫌がる傾向にある。かつて元日本代表MF中田英寿らは億単位の金額で海外移籍し、Jクラブも潤ったが、近年は金銭補償がないケースが多く、人気選手がいなくなるクラブの痛手は大きい。

 家長の場合、契約期間中だったにもかかわらず、海外移籍の場合には契約を解除するとの覚書があったため、G大阪が移籍金を放棄せざるを得なかった形。家長と4年半の長期契約を結んだマジョルカは契約期間中に他クラブに移籍する場合には約20億円の違約金を設定。タダで獲得した家長を他クラブに売却すれば丸もうけできる。

 こうした事態に、G大阪の金森喜久男社長は「個々のクラブではなく、リーグとしてルールづくりすべきだ」と対策の必要性を説く。また、別クラブの社長は「選手に5年契約をのませるか、そうじゃなければ『いらない』と戦力外通告するか。クラブ側も毅然(きぜん)とした態度で臨む必要がある」としている。

 ただ、経営格差のあるJクラブが足並みをそろえるのは難しく、選手に魅力ある高額年俸を提示できるクラブは限られている。

 そもそも、国際的なルールに従い移籍しようとする選手に別の規制を設ければ、猛反発を受けるのは必至。海外で日本選手の能力が認められるほど、タダで選手を奪われるJリーグが“損失”を被る皮肉な流れはしばらくやみそうにない。



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