「もの言う株主」として恐れられ、経営を揺るがしてきた外資系ファンドが日本での活動を縮小している。代表格の米スティール・パートナーズは2010年末、サッポロホールディングス(HD)株を全株売却し、今後は日本企業の新たな株式購入を控える方針だ。背景には日本企業が国際競争で劣勢に立たされ、投資先としての魅力が薄れてきたことに加え、日本的商慣行の「株式持ち合い」が買収の壁となっている実情があり、日本企業が抱える経営環境の功罪を浮き彫りにしている。

 「常に企業価値を磨き抜く覚悟と日々の努力がなければ、どんな企業も同じ状況に陥るのではないか」。スティールとの6年余りの攻防についてサッポロビールの寺坂史明社長は1月12日の事業説明会で、自身に言い聞かせるように語った。

 04年10月、5%超のサッポロ株保有が表面化したスティールは、その後19.28%まで買い増し、07年2月には株式公開買い付け(TOB)による買収を宣言した。サッポロ側がこれを拒否すると経営陣の刷新を求め、両者の攻防はエスカレート。だが、役員選任案が10年3月の株主総会で機関、個人投資家などの支持を得られず否決されると、海外のファンド出資者の意向もあり、スティールは12月中旬までに全株式を手放した。

 サッポロHD経営戦略部の大浦宗彦グループリーダーは「3期連続で増益を確保した実績や、16年までの成長戦略が株主に支持された」と説明する。サッポロは高級ビールや第3のビールに資源を集中しており、11年のビール系飲料の販売計画は前年比2.3%増の5635万ケース(1ケースは大瓶20本換算)と、アサヒビールやキリンビールのマイナス計画と対照的に強気だ。

 ただ、サッポロHDの株価はこの1年間で約25%下落しており、市場の評価は厳しく、「スティールとの攻防で得たものは何もない」(サッポロ関係者)との声も上がる。スティール側も痛手を負った。サッポロHD株からの撤退では1株400円台とみられる取得価格を下回る300円台で売却しており、損失が生じたとみられている。

 スティールは08年秋のリーマン・ショック後、出資をあおぐ欧米の年金基金などが資金を回収したため、投資を縮小してきた。昨年12月には07年に敵対的買収を仕掛けた機械のこぎりメーカー、天龍製鋸の全株を同社に売るなど、数十社に及ぶ投資先株式の大半を処分した。

 スティールが5%超の株を現在保有するのは、社長を送り込んで経営再建を進めるユニヘアー(旧アデランスホールディングス)だけ。スティール関係者は「日本から撤退することはない」とするが、日本での投資は大幅に縮小する意向という。

 ◆企業価値向上の教訓

 「もの言う」外資系ファンドでは、英ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドが08年11月、経営改善を求めたJパワー(電源開発)の株式9.9%を同社側に売却したほか、米サウスイースタンも昨年9~11月、第一興商の約69万株を市場を通じ売却するなど、日本企業の保有割合を下げるケースが目立つ。

 かつての買収攻勢について、企業買収に詳しい太田洋弁護士は「ターゲットになった企業を含め、株主還元に力を入れなければという緊張感を上場企業に生んだ」と、企業側の意識改革を促した効果を指摘する。

 一方、ファンド側にすれば、経営の安定化や取引関係の強化を図るために取引先や金融機関との間で行う「株式持ち合い」が、日本企業の成長を阻害しているとの思いが強い。日本からの撤退加速は「『日本だけの非常識』によって、投資先としての魅力が薄れている」(大手法律事務所)ためというのだ。

 実際、外資系ファンドの投資先は日本株に見切りを付け、中国やインドなどアジアの新興国市場に移っているという。

 欧米で頻繁に行われるM&A(企業の合併・買収)は経営陣刷新などが企業の成長につながる側面もあり、株式持ち合いは「日本の国際競争力低下の一因」(アナリスト)との指摘もある。外資系ファンドの退潮を日本経済衰退の前兆としないためには、企業価値向上に向けた取り組みの強化が欠かせない。(鈴木正行、小川真由美)



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