
君はどうする?脱ぐかね?それとも帰る?
「・・・」
先程も説明したとおり、君には黙秘権がある。しかしその黙秘は肯定を意味する。それでは始めようか。
「・・・」
ふむ。一見して成長しきっていない肢体。まずは合格点だ。ああ、その場から動かないでほしい。全方位から撮影が行われているからね。撮影画像がリアルタイムで三次元構成されこのモニタで表示される。外見に目立った傷はないようだ。もっとも調査済みの事項であるから、これはただの再確認に過ぎない。では次のフェーズに移行しよう。
白衣を身に纏った男は、被験者のもとへ近づく。少し白髪混じりで鷲鼻。表情は一定のまま。感情が表に出ないタイプのようだが、眼鏡の奥の眼光は鋭い。こんなものはただの実験対象であってルーチンワークの一環に過ぎないと伝えたいかのようだ。
男は舐めまわすように肢体を隅々まで観察している。時々、ほぉ、とか、ふむ、とかの声が漏れ聞こえる。口癖なのかもしれないし、自分がしていることを自分で納得したいのかもしれない。
目視では特に問題が見当たらない。むしろ我々の期待以上と言って差し支えないだろう。予備調査では経験がないということだったが、間違いないだろうね?
「・・・」
相変わらず黙ったままだ。男の質問に対して肯定とも否定ともとれる動きをわずかに示したが、無視されている。男は手元のファイルに何かを素早く書きこみ、右手でペンを持ったまま人差し指で女の身体に触れる。頭髪から始まり、顔、首、鎖骨。女は目を閉じ、頬は少しだけ赤らんでいる。男の指が背中に回り、そして上腕部を通り正面へとなぞられる。
「あっ・・・」
男に聞こえるか聞こえないかほどの声が女の口から洩れる。
声はいくらでも出してくれてかまわない。この部屋は完全防音なのだから、外に漏れることはない。しかし契約書にも記載されていたとおり、すべての音声と映像は記録され保管される。これは不特定多数の人間に見られることは決してない。安心したまえ。
そう説明しながら、男は執拗に一点を集中して指を這わせている。女の身体が小刻みに震えだしたが、声が漏れることはなかった。それはわずかな抵抗だったかもしれないし、決意だったのかもしれない。
それでは、あちらで横になりたまえ。君も少し疲れただろう?
男はほんの少し口端を上げる。もしかするとジョークだったのかもしれないが、女にはわからなかった。命令されるまま、無機質なベッドに身体を横たえる。
つづく