彼が磨かれた平石の上に横たえられると傷口がはっきり見えた。
膝からくるぶしの間を複雑骨折していた。
ミルク・チョコレート色の皮膚を突き破って太い骨が五センチほど飛び出している。
(中略)
このドラマの三人の主役-
あおむけに横たわる怪我人、
その足元の<呪術師>、
傍らにひざまずく<女の癒し手>-は、
いっせいに祈るような口調で話しはじめた。
<呪術師>が両手で怪我人のくるぶしを握るようにしたが、
実際に触れたり引っ張ったようには見えなかった。
<女の癒し手>は彼の膝のあたりで同じしぐさをした。
彼らはてんでに祈りとも歌ともつかない言葉を口にしていたが、
ある時点で同時に声を張り上げて何か叫んだ。
なんらかの形で牽引したのだろうが、私にはまるでそうは見えなかった。
飛び出した骨が傷口から引っ込んで元の場所に納まった。
上記は、マルロ・モーガン著「ミュータント・メッセージ」にある一説である。
この本の内容は、著者が実際にオーストラリヤの原住民である、アボリジニ部族と生活をともにした際のノンフィクションだが、
上記は、その中に出てくる怪我人を治療するシーンである。
※著者はあとがきで「この本は事実と実際の経験にもとづいて書かれた本です」といっているが、懐疑主義者たちはこの本に出てくる数々の奇跡について、未だにその内容を疑っていると聞く。
ともあれ、音(声)の神秘的側面を表現したひとつの事例である。