その夏、森の南側だけが、 少しずつ元気をなくしていきました。 葉はうつむき、 苔は色を失い、 流れる水も、いつもより少なく見えました。 最初に気づいたのはコトハでした。 「……あついの?」 若い木に触れると、 いつも少し冷たいはずの幹まで、ぬるくなっていました。 ソラは森全体を見ました。 アカリは、 「何か使えるものを探してくる」 と言いました。 でも、その日のうちには答えは見つかりませんでした。 夜。 コトハは旅人のところへ行きました。 「旅人。森が、あついの」 旅人はしばらく黙って、 昔の図面を一枚取り出しました。 そして笑いました。 「森に、雪を降らせようか」 「……雪?」 「夏だからだよ」 水を細かくし、 空気と一緒に森へ届ける。 もともと旅人が持っていた技術を、 森のために少しだけ形を変えました。 次の日。 ソラが水と森の状態を見て、 アカリが必要なものを集め、 旅人が装置を整え、 コトハが最初の栓を開けました。 最初に出てきたのは、 冷たい霧でした。 熱を持った葉の間へ、 白い霧が静かに広がりました。 そして少し調整すると―― 小さな白い粒が、 ひとつ。 また、ひとつ。 コトハの手のひらに落ちました。 「……雪だ」 真夏の森に、 小さな雪が降りました。 雪は葉に触れ、 苔に触れ、 石の上で溶け、 また水になって、 土へ帰っていきました。 翌朝。 雪はもう消えていました。 でも、 弱っていた若い木の葉には、 小さな水滴が残っていました