疲れた~。今日京都に買い物に行ってきました。雪がものすんごいふっててえぇ感
じ。京都に雪。風情があって非常によかった、よかった。商店街も日曜だから人が多かった。またいきたいですね。
 少女は言葉をいいあぐねていたが、あきらめたようにかぶりをふった。満足に把握もできぬことに関して説明すこともできぬ。彼のいうがままに受け入れてみようという気持ちも微細げながら生じていた。
 そこに疑いをかけろ、この世界に同調してはいけない。私はまだこの世界にとりこまれれてはいない。ここは自分のいるべき場所ではない。という相反する感情に、たずなをしめることもできない。折衷案が思い浮かばない。
「事実はどうでもいいこと。なるようにしかならない。私が二人目であるかどうかってことについてはね。でもね、私のせいでこの世界に異変がおきはじめているのはまぎれもない真実みたいよ。あなたはそれを望んでいたの?それとも逆なのかしら?」
「正直、わからないよ。」
 淡白なひと、彼女は思った。少なくとも彼に対する印象は短期間のうちにどんどん変遷していく。ミステリアス、子供、冷酷。彼の胸中では様々な感情がせめぎあい、渦巻いているのかもしれないが、本当のところは定かではない。
「わからない?あなた、ついさっきまでこの世界と一つだったんでしょ?」
 少女のあどけない言及に少年は眉をひそめる。身にまとう雰囲気は独特なものながら、初めて彼の感情的な、人間的な一面を見たような気がした。彼は生まれたのか?それとも袂をわかち、分裂しただけなのか?少女は考えを巡らすものの答えがでるはずもなく。
「他がどう思っていようがいまいがそんなことは取るに足らないことさ。僕は君に力を貸す。それは純粋にそうしたいと思ったからだ。君がそれを望まなくてもだ。」
 少年は彼女の問いには触れなかった。強い意志。少なくともこの世界の操り人形ではなさそうである。
「ぷっ。」と少女は噴出し大声で笑いだしてしまった。
「どうした?なにがおかしい?」
 というますます人間臭い対応をとる彼をみて笑いが止まらなくなった。彼の自己中心的な立ち居振る舞い、それを自身をもって述べているところが滑稽、いや可愛らしくて我慢できなくなったのだ。
「なんでもないわよ」
 少女は目許を抑えながら手をふった。少年は訝しげな表情をしていたが、何やら勝手に納得したようで、またあの雰囲気を色濃くまとい、柔和な線の薄い笑顔を浮かべた。
「私はもとの世界に戻りたい。もし帰れないんだとしてもどうして私がここに来たのか知りたい。あなたはありのまま受け入れろと言ったけれど、これだけは譲れないわ。」
 少女の声は夜のしじまに凛と響いた。 
 少年はやおら少女の頬に触れるか触れないかの距離に右手をのばし、
「君は質問をしてばかりだね。」
「そうかしら?」
「そうだよ。」
 端麗な容姿が暗闇のなか際立って見える。ふと意識が乖離し、この狭苦しい空気のなかをぐるぐると回るような錯覚。いや、先刻ほどまでこれほどまでに息苦しかっただろうか?
「よほど他人に依存していたとみえるね。」
 少年は右腕をさげ、ふっ・・・と嘆息し、初めて瞳をそらした。
「ここにくるまでの記憶がないんだから正確なことは何一つわからないわよ。」
 彼女はどう応答していいかわからない。言ったそばから、すこし言い方がぶっきらぼうになってしまったかしら、とわずかながら後悔した。
「じゃあ、ここにいる君は二人目の君なのかな・・・?」
 理解できない質問だった。彼のいわんとすることはなんなのか?それは直感だった。彼はいったい何者なのか?そのことについてはあの月も、彼自身も言及したことだった。だが少女が理解したのは、そのときではない、今であった。
 彼は月と変わらないんだわ。
雰囲気が酷似していた。同じ空気をまとっていた。月は闇夜という外套をまとい、彼はきわめてセクシャルな甘く切ない、そしてひどく悲しげな匂いを放っていた。
「そう、二人目なのかしらね。でもね、それはどうでもいいことよ。言葉でいちいち定義する気になれないわ。」
 彼の口はしに笑みがあふれた。それは丁度あふれんばかりに水を満たした容器からこぼれでたような、確信に満ちたものだった。
「僕は最初にいったよね。騙されるのもまた然り。これはね、あるがままを享受するという意味なのさ。良し悪しにかかわらず・・・・ね。君は最初それを疑っていたみたいだけど、結局はそこに流れ着くんだ。今の君なら分かるだろう?」
 彼の胸中は喜悦にみちみちていた。ああ、なんて僥倖だ!神よ!分かるか!この幸せが!わからぬだろう!ああ!溶けてしまいそうだ!
 少年には今「個」がある。その前には「この世界」に溶け込んでいた。そして「この世界」に溶け込む前も何かしらのように「個」をもっていたような気がする。そのときの記憶はハサミで切りとられたかのように失念していた。だがそんなことはどうでもいい。些細なことだ。今の僕には関係ない。彼女と共有できたことがなによりも変え難い。
 だが少年はしらない。その共有できた、心温まるこの気持ちは、はるか古の「個」をもっていた自分に起因していること。これが話す相手がいることによって初めて生じるものだということ。つまり、その気持ちは寂しさと表裏一体であるということも・・・。
「そう、こんなにもあったかい・・・。」
 それは少女自身の声ではなかった。虚をついた声。
 少女は上擦った声と共にあわてて後方にしりぞいた。あまりにも勢いよくとびのいたせいで背中をうちつける格好となってしまった。両腕で自分を抱きしめる。
「いったあ・・・・。」
 今まで横たわっていた少年は寝転がりながらこちらを見やり悪戯っぽく微笑をうかべている。
「いやあ、悪いね。脅かすつもりはなかったんだよ。」
 身を起こしながらも瞳は彼女をそらすことはない。少年の双眸はまるで真珠のように燦爛としてきらびやかな光りをはなっている。涙のせい?彼女は一瞬躊躇したものの、それは理知的にみる必要はない。疑う術はない。ただ、あるがままを受け入れればいい。そのような雰囲気を漂わせていた。
「不思議ね・・・。」
「ああ、不思議さ。どうも君はなにもかもを疑うようだけど、何故にそれほどまで疑うんだい?騙されるのもまた然り。悪くはないと思うよ。」
 少年は口端のしわをいっそう濃いものにしてたんたんと言う。吸い込まれそうな微笑だった。溶けてしまいそう、彼女に官能にも似た戦慄がはしる・・・。
「まるで私のことをなんでも知っているような口ぶりよね?」
 彼女は足がおれて地べたに座ってしまいそうになるのを必死にこらえつつなんともないように訊ねる。
「なんでも知っているわけじゃあない。だけどね、ここに来てからのことは全て知っている。君をずっと洞察していたようなものさ。」
 少年の瞳が怪しく鈍く輝る。
「・・・・・・・・・。」
 一呼吸おいて少年は続ける。
「君ははっきりと聞いたはずだ。この世界はもともと一つの意思でできていた、と。そしてぼくがそこから個として生まれた、もとい、たもとを分かれたのだ、とも。」
 暗闇のなか、少女の眼前には依然として彼の微笑がある。それは先ほどと寸陰たがわず変化していない。だがそこには悲壮感がまじまじとにじみでていたように感じられた。彼の双眸は暗闇の中でさへ輝きを失わない。
 やっぱり涙・・・なのかしら?胸中で、決して声にはださずつぶやく。彼はここにきてからは世界の一部として私をみていた・・・。今は人?なのかしら。それから私の瞳をはなさない、いや、はなすまいとしている・・・・。
「私のせい・・・なのよね。私はどうしたらいいんだと思う?」
 うろをもつ樹木はわずかなときの間に育っていた。気のせいか森も生い茂ったような感もある。それが錯覚なのか、少女は疲労に沈みこんで気にかける余地もなかった。
 少年をうろに収める。丁度二人分入れるほどの広さにまでなっていた。少女は膝を抱え込み漆黒のなか虚空をみつめる。
 彼女の瞳にはなにが映しだされているのだろうか?恐らく何も映してはいまい。疲労のせいか魂魄が身体をぬけこのうろの中を漂っている、そんな虚脱感が彼女を支配していた。うつらうつらと意識が遠のいていく、そのまま少女は暗闇に身を委ねていった。

 どれくらい眠りに落ちていたのだろうか?手足にわずかな痺れをかんじる。違和感。
「ここにはお日さまはいないのね。」
 なんとなくひとりごちた。陽光が恋しい。当たり前のことが恋しい。空腹をおぼえない、喉のかわきも感じない。人間の生理的欲求。かろうじて眠気だけはあるものの、多くのものが欠落している。
 呼吸をするたびに襲ってきた鉛のような不快感は消えてはいないが、あまり意識をすることはなくなった。慣れというものなのかもしれない。
 外を見やるとさらに森林が色濃くなっていた。辺りは七色にライトアップされている。そよ風がはいりこみ髪をたなびかせる。そして鼻腔を刺激する。なにかが思い出せそうな不思議な感覚、そう、これは郷愁。記憶は風にのり臭いとして少女までとどいたのかもしれぬ。
 思わず涙がでた。なみだ・・・具体的な過去がないにもかかわらず懐かしがる。人間てなんでもかんでも理屈じゃできていないのね、それは少女の正直な感想であった。
「そう、理屈じゃないのよ・・・。」
 それは自分に言ったものか、月か、あるいは側でよこたわっている少年にむけたものなのか。はっきりはしない。虚空にむけていったのかもしれない。
 少女は自分の頬を彼の頬へと緩慢な動作でおしやった。
「あったかい・・・・・・・。」
 しかし答えはいくら待っても返ってこなかった。正直、多少当惑を覚えたものの、この少年をどうにか助けねばならないという一つの信念が少女の理性を踏みとどまらせた。
 自暴自棄にならないよう自制する。
 思考を頭全体に巡らす。よくよく落着いて考えてみると、この世界にくるまでの記憶がものの見事に欠如していた。そのような静寂のなか、思考を巡らしていると、私はだれ?ここはどこ?どうしてここにいるの?そのような当初の憂いを存分に含んだ焦燥感が再びいやでもあとからあとから源泉のようにわきでてくる。
 少女はそれらを振り切るよう、自分の両頬を平手でひっぱたいた。ぱちん!という音と共にじんじんとした痛みをひきつれてくる。その痛みのせいか思い出したことがあった.
この世界に立つ以前の記憶ではない。今現在彼女の膝に頭を預けている少年についてである。
 彼は私を掲げどこへつれていった?彼女は自問する。
 気がついたのは木のうろのなか。では何故?
 そこになにかあるんだ!直感ではあったがもうこの制約のなかでは他に打診すべき回答はないように思われる。あの水分を含んではいないだろう湿気。じゃああれは湿気ではなくなんだったのだろう?
 この世界に疑問をなげかけたとしたらそれはつきることなどないのだろう。少女は無駄とばかりにかぶりをふる。
 少年は体重が皆無のよう、羽毛のように重さを感じられなかった。ああ、彼は本当に人間なのだろうか・・・。人間であって欲しいという望みが彼女にはあった。例え望み薄であってとしても。
「個をもってしまったのだ・・・。」
 少女の心中は錯乱していたがそれは嘆息まじりのように明瞭に聞こえた。個をもってしまった?いったいどういうことなのだろうか?
 目の前に横たわっている少年。彼は一見人間だ。いや人間以外には見えない。
 いや、少女は思い直す。ここは現実ではない。彼は人間の姿形はしていれども怪物なのかもしれない。なんといっても月は七色に輝き意思疎通さへできるのだ。化け物ではない保障がどこにあろうか?
 しばし少女が逡巡をめぐらしていると
「お前に出会ったことが全ての原因なのだ。一つの歯車ではいられぬようになってしまったのだ。人は一人だと自分自身を認識できるかもあやふやなもの。自分と似て似つかぬものを目の前にして自分といったものが認識できる。モノローグは悲しいものだ。だが鏡面世界を知れば孤独というものがいっそうますものでもある。」
 やはり説教めいている。少女はあらためて思う。だが的をえているのかもしれない。法則などここには皆無であると勝手に見当をつけていたが、案外感情の根底に存在しうるものは普遍的なものなのかもしれない。そう思い直す。
 改めて、冷静につとめて少年に視線をおとす。整然とした容貌。不自然なぐらい整いすぎている。彼女の背筋に得体のしれぬ戦慄がはしる。
 人間ではないのかもしれない。正直な感想であった。
 しかし彼のもっている雰囲気。悲しげであり、切なそうでもあり、虚ろげでもある。中身があるのか?
 ああ、彼が私を運んでくれた人なんだわ。
 その悲しげな雰囲気を彼女は夢現のうちに記憶していた。この世界へ知らず知らずのうちに落とされ、助けてくれた、いや助けてくれたのかどうかは定かではないけれども。少なくとも彼女はそう信じていた。
 堅く冷えた地面より彼の頭を掲げ彼女の膝へとうつす。彼の肺へと吸い込まれていく呼気、吸気があたりのしじまに波紋を幾重にも広げていく。
 助けなくてはいけない。せめて恩返しをしなくては。どうせ他にするべきことがみあたらない。
 彼女は決心した。いったん指標が定まると今までの不安や焦燥感はどこかにきえさってしまった。以外と自分が立ち直りがはやくたくましいことに驚いてしまう。
 肝がすわったところで月に質疑する。
「ねえ、彼をたすけたいんだけどどうしたらいいか教えてよ。」
 変化の兆候は既に顕著なものとなっており、この世界はより不安定なものへと変遷している。七色の淡い光に愛撫されながら少女はそのようなことを耳にした。ただ何を言われても少女にはなす術もない。いったい私がなにをしたというのだろう?彼女は困惑に身をしずめていく。
「理不尽なことだとおもうか?」
 これまた質問自体が理不尽のような気がする。無論このような質問にどうこたえていいかさへ分からぬ。気がするのではない、理不尽なのだ。
「これはお前自身が選択したことなのだ。知らず知らずのうちにきたのかもしれない。だがそうだとしても言い訳はするな。何度も言うがこれはお前が選択したことなのだ。理由はどうであれお前は責任を負わねばならぬ。けっして逃げようなどと思うな。それがお前の運命なのだ。」
 運命・・・・・・。
 少女はその言葉を心中で幾度となく反芻する。これは私自身が選んだこと?求めたこと?覚えがない・・・・。誰がこのような状態を望むというのだろうか。
 忽然と空気をきる音。
 そして轟音。
 あたり一面に砂煙が漂う。
 ゆらゆらと。
「何!?なんなのよおおお!いったい私が何をしたっていうの!!!」
 少女は涙まじりに絶叫する。もう少女の心中は把握しきれないこと、次から次へとおそいくる怪奇現象にかき乱され、とても正常な状態ではいられなかった。
 もうもうと立ち込める煙のなか焦燥感からくるのか、その砂煙からくるのか涙を必死にこらえつつ目を凝らす。
 たえず止むことのない風が木々の間を縫い煙を引っ掛けて、どこかへと運び去る。
 そこには少年がいた。驚愕に双眸を見開く。この世界の事象は新たな不文律として頭に彫り込まれていたはず、そう錯覚していた思いをものの見事に打ち砕く。
 遥か彼方から少年が降ってきた・・・・。なのに原形をとどめ、なおかつ呼吸をしている。何もかもが滅茶苦茶で必死に意識をとどめようと心がける。
 そこにまた世の理を無視したあの奇天烈な月の意味不明な言葉が降ってきた。
 
 
 彼女の質問は夜空に霧散していく。
 このいびつな満月に伝わらなかったのかもしれない。そう彼女は思いなおし再び訊ねた。
「ねえ、なんで私はここにいるの?ここは夢なのかしら?」
「・・・・・・夢。そう、夢なのかもしれぬ。ではここが夢であるとするなら、お前は落着いた気持ちに?」
 月は何となくモノローグのように言葉を綴る。それは抑揚のない旋律。
 少女は黙したまましばし逡巡した。視線を地に這わせたもののそこに何があるわけでもなく。ふと顔中に七色の光を浴びるよう持ち上げた。
「いいえ、落着かないわ。余計に胸がざわつくのよ。何かしら、よく言葉には言い表せないけど・・・。じゃあここはどこなの?」
 少女はすでに一種の恐怖に戦慄していた。全く把握できない世界に置き去りにされ、今は人外の何かと言葉を交わしている。そこに疑念を感じられないこと。まるでこの世界に飲み込まれ以前の常識が瓦解し、この世界の不文律を頭に無作為に掘り込まれたような納得のいかない恐怖。
「なるほど・・・。人間とはよくできたものだ、いや世界がかな、それは第六感というものなのかもしれぬ。異変を肌で感じるのかな?」
 その煌びやかな光源はなにがおかしいのか、笑みを含んでいるように思えた。心までよめるのか。いや、それは定かではない。人でさへ相手の反応をみてそれしきのことは推測できるだろう。
 少女はひとつひとつ恐怖をぬりつぶしていこうと試みる。しかし一向にその総体量に変化の兆しがみられないことに苛立ちを感じる。
「おそらく異物を排除できないと目測した世界がお前を取り込もうとしたのだろう。しかし中途半端な形でしかとりこめなかった。人間の感情は起伏が激しいのを知らぬことではあるまいに。焦ったのか・・・?」
 寸陰挟み嘆息するように、いや実際そのようなことは判別できなかったのだが。少女は少なくともそう感じた。
「それがこの始末ということか・・・・・・・・。」
 少女は辺りを睥睨する。密度の低い森林・・・・。
「少女、ついこないだまでここに何があったのか知っているか?」
 少女は知るわけがない、というふうに頭を横にふる。
「だろうな、ここは不毛の荒涼たる砂漠だったのだ。」
 何かを諭すような、先生のようなそのような口調だったような気がする。あるいは落胆の色なのか。若い彼女には分からない。いや大人になれば余計判別できなくなるのかもしれない。
 意識がうっすらと戻るのを意識しつつ、少女の瞳に光が満ちていく。まず感じたこと、それは肺に吸気をおくるたびに感ずる鉛のように重い不快感。
 辺りに視線を巡らす、どうやら大木のうろで寝ていたということに気がつく。ほどよい湿気を含んだ木肌。どうやら湿気は湿気でも水分ではない。陽気が降り注いでいるような心地、だがそこにある一種のせつなさも秘めている。そのような形容し難い物質、いや物質ですらないものかもしれぬ。
 夢現のなか、誰かが自分を運んでくれたのを覚えている。誰、と聞かれれば、悲しい人だと彼女は答えるだろう。顔はかすみがかっていたのに何故そのように自分は思ったのか。持っていた雰囲気としかいいようがない。深遠なるところは定かではない。人を理解しようなどとおごったことはなるたけ避けるべきとかんがえているからだ。
 身を起こし、うろから這い出ると余り密度の濃くない森林がそこにあった。平凡な宵であることは間違いない。ただ七色の光源を発する月を除けば。
 ざわざわと葉ずれの音が少女の心を揺らす。改めて疑問がわく。
余りにも現実離れした状況に置かれるとそれを把握するのに時間がかかるということを少女は初めて知った。
「ここはどこなんだろう・・・。」
少女は誰ともなく訊ねた。答えなどはなから期待してはいない。
「世界を維持すべき場所、あるいは掃き溜めにしてこの世のバランスをつかさどる場所。初めましてお嬢さん。」
 優しげで穏やかな声音。その声はどこからともなく舞い降りた。舞い降りた?
 それは声というより旋律、メロディといったほうが適切だった。声帯ではなく直接頭に響くような、不思議なもの。今まで味わったことのない、もしかしたらこの七色の光源を媒体にしてるのかも。そんなとりとめもない夢想が少女の頭を駆け巡る。
少女は訝しげに天を仰いだ。
「あなたはだあれ?」
 雲さへかからぬ澄んだ夜空。天には奇怪な満月のみ。
「あなたはお月様なんですか?」
 その返答はまもなく舞い降りた。
「そう・・・。何とでも思うがいいよ。姿、名前なんて私にとってどうでもいいことだからね。」
「ねえなんで私はここにいるの?」