キャッチボール
「大統領になって自分自身の国を作るんだ!」
突然あいつが言った
「覚えてるか?俺が引っ越してきてお前とこんな風にキャッチボールしたときに話した将来のこと」
僕はしばらくボールを見つめながら、しかしすぐに投げ返して
「あぁ覚えてるさ 大統領か・・・恐れ多いことも言ったもんだな俺も」
あいつはまるで磁石をつけてるかのようにボールをグラブに吸い込む
「本当になれると思ってたんだろうな 昔のお前は」
少し皮肉ったような笑顔をあいつは作った
分かっている あいつのあの笑顔は小馬鹿にしたときのような気持ちは一切無い
「あのときの俺は目標としてることが沢山あったんだろうよ だから何でもできる大統領を選んだんだ」
僕は苦笑いを作りながら構える
「お前は・・・・俺の将来の夢は覚えてるか?」
言いながら早めのストレートを叩き込んでくる
「っ!・・・あぁ、もちろん・・・・だ!」
僕も同じくらいのストレートを叩き込む
「あれだ・・・”宇宙飛行士になって地球を見る!”だったか?」
あいつが球を受け取り 言う
「あぁ すっげ~でっかい事をしたいと本当に思ってたんだ」
「でかい事か・・・そういう面では俺とお前、同じ夢だな」
「ハハ それもそうだな」
言ってから あいつは球を山投げにフワリと俺に投げてきた
「俺たちってさ ガキの時より大きくなって自分のことも多少はできるようになって」
僕はボールを受け取る
「社会のことも知って夢をかなえることが可能になったのにさ・・・」
僕はボールをあいつに投げずにあいつが何を投げてくるのかを待った
「夢が小さくなったとは思わないか?」
それは今までで一番強い気持ちのストレートだった
「それもそうだな・・・今のお前の夢って何だ?」
僕はあいつに気持ちを投げ返す
「それがだな・・・あまりよく分からないんだ・・・」
あいつから返ってきた気持ちは山投げでヘロヘロした物だった
「みんなが大学行くから大学行く そこで将来の夢を見つける 大学に行けば安定した職に就ける」
あいつはつぶやくように言う
「俺さ・・・そんな俺が嫌なんだ 建前で将来の夢やら進路を書いてその建前は回りに流されてるだけで・・・」
「・・・・・・・」
「自分の将来のことなのに自分で何一つ決めてないんだ・・・俺は」
「行くぞ!」
「ぇ?・・・ぉお!」
俺は全力であいつに球を投げ返した・・・渾身の力を込めて
「お前ってさ 俺が投げて来るから投げ返してるのか?」
「え?」
「お前はそのボールを投げ返さなきゃいけないと言う義務感で投げてるのか?」
「いや・・・それは違う・・・」
「キャッチボールしようと最初に言ったのはお前だよな?」
「あぁ」
「おれは 同じだと思う キャッチボールと」
「・・・・・・・」
「確かに大学へ行けば・・・とか 周りのみんなが・・・・ っていうのは流されてしまって自分自身の考えじゃないと思ってしまうと思う」
僕はグラブを構える
「でもさ 周りが何言おうと建前だろうとそれは自分が正しいと思ったことじゃないのか?自分の気持ちじゃないのか?」
「でもさ・・・」
「今俺はグラブを構えている キャッチボールを続けたいならお前はここにボールを投げ返せばいい」
「・・・・」
「それはお前が”キャッチボールを続けたい このまま流れるままに”という気持ちを純粋に行動に現している証拠だ」
僕は構えを解く
「でもな お前がキャッチボールをやめたければ投げずに何か違うことをすればいい バッティングでもいいし帰ってもいい」
あいつはグラブの中にあるボールをぼんやりと見ている
「その変更が俺に受け入れられるか受け入れられないかは別の問題だろう?バッティング練習しなければならないんだったら今すぐキャッチボールはやめなきゃいけない 家族が家で帰りを待ってるならすぐ帰らなきゃならない」
「あぁ・・・」
「要は今自分が何をしたいのか それを自分の中でちゃんと根っこ生やして立たせてやる ってことじゃないのか?」
「あぁ」
「流されてると思ってしまってるのは表面だけ見て判断してるからだ 本当に自分の中に考え持ってるなら流されてるとは思えないと思うぞ?」
「そうだな」
あいつは顔を上げて投げる姿勢
「じゃあ聞くけど お前の・・・・・根っこって何だ!?」
それは驚くようにまっすぐなストレートだった
「っ!・・・俺か・・俺の根っこは」
そして僕も
「いろんなことができる・・・・大統領だ!!!」
思いっきりあいつに投げ返した