『想像力』について
音楽会でのこと。
ピアニストが現れてピアノの前に座った。
ピアニストは座っている。
1分後。
ピアニストは座っている。
2分後。
ピアニストは座っている。
3分後。
あいかわらずピアニストは何もしないで座ったまま。
すると、ピアニストはすっと立ち上がり ステージのすそへ帰っていった。
曲が終わった。
実は、これは現代音楽の古典のひとつに入っている有名な曲。
ジョン・ケージ(1912~92)が1952年に書いた「四分三三秒」という曲。
ステージに登場した演奏者が一定の時間、一音も出さずに退場するというもので、その間に会場で聞こえてくる雑音や聴衆の発する音などが、すなわち音楽だ、という考えのもとに作られた。
実際は楽器の編成も演奏時間も任意で、楽譜には「休止」という指示があるが、これをニューヨークで初演したピアニストのデヴィッド・テュードア(1926~96)が、ピアノの前に座って指示通り何もしないでいた時間が、四分三三秒だったことから、この題名となった。
つまり、ほかのピアニストが違う時間で演奏すれば、題名の時間表示も変わるわけで、何通りもの題名があることになる。
このことは曲の譜面にも記されている。
さらに、譜面には三つの楽章の表示まであり、 それぞれの楽章に割り当てる時間も、演奏者の自由に任されている。
ケージの音楽思想の中には、偶然性の音楽、不確定性の音楽、というものがあったが、その象徴的な作品といえる。
ちなみに、ピアニストに詩や呪文を唱えさせたり、ピアニストに演技もさせる作品などもある。
何も演奏しないけど、曲。
一人一人が自分の頭の中で想像をめぐらせて自分から生まれる音を楽しむ。
聞く人の想像力が問われる曲。
それがこの曲の中身。
いつだって想像力が問われている。
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