Re;再会 《後編》 20 | 向日葵の宝箱

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まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
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「それでは茶木警視、よろしくお願いします。」
『ああ、わかった。』
銀三はその声を聞くと大きく息を吐き、スマートフォンを下ろした。

たった今銀三は、ルルーシュに指示された通り、銀三が今いるサミット会場の建物の屋上ヘリポートにルルーシュのヘリが着陸出来る様手配を終えたところだった。
その手配は、予想通り、銀三にとっては大変難儀するところであった。

まず、なぜ民間人のヘリを、今この重要なサミット開催中にあえて着陸させなければならないのか?
それを説明するのが困難を極めた。

銀三は快斗達から直接話を聞いて、ルルーシュとスザクが別世界から理由(わけ)あって飛ばされてきて、枢木首相やマオという人物についても詳しく聞かされていた為納得はしていたが、それをそのまま上層部に説明しても納得が得られるはずがない。

そこをあえて納得させてルルーシュ達がこのビルに着陸できるよう手配するのは大変な苦労を要する事だった。

「警部、お疲れ。」
医務室のベッドに腰かけてそれを隣で見ていた快斗が声を掛けると、ベッドの横に設けられているソファーに座った銀三が頭を掻いてもう一度息を吐いた。

「ああ、まったくだ。」
その答えに快斗が苦笑いを零す。
「でも、なんだかんだで、オレ達のぶっちゃけハチャメチャな話を信じて、結果的に上のエライ人達を納得させちゃうんだから。警部は凄いよ。」
その言葉に銀三が横目を向けながら微笑して応える。

「君達が実際に動いているという事は、事の重大さを疑う余地はないからね。ただ、頭の固い上層部を動かすのはまったく一苦労だ。」
「だよね。」
応えると快斗はその場で両手を組み大きく上に上(あ)げて伸びをした。

「具合はどうだね?」
「大丈夫。大した事ない。警部のおかげですぐに治療してもらえたし。充分動ける。」
「そうか。」
銀三が応えた。

その時。

銀三が手許に握っていたスマートフォンが着信音を告げた。
それを見て銀三は目許を和らげると、すぐに画面をスライドして口を開く。

「青子か。ああ、快斗君。今ここにいるよ。代わるから待っていなさい。」
銀三はそう言ってスマートフォンを快斗に差し出した。

「青子だ。君に連絡したが電話が繋がらなかったと心配している。」
「そっか。そういえばさっき・・・。」
言いながら快斗はスマートフォンを受け取り耳許にあてる。

「青子?」
『快斗・・・?』
「ああ。」
快斗が頷くと、電話越しに青子がわずかに鼻をすする音が聞こえた。
それを聞きながら快斗はわずかに瞼を伏せる。

「さっきはゴメン。」
先ほど青子から電話があった際に出られなかった。
その事をよほど心配していたのだろう。
そう思いながら告げた快斗に青子が言った。

『バ快斗。青子が電話掛けてるんだからちゃんと出なさいよ。心配するでしょ。』
「うん、ゴメン。」
もう一度告げた快斗に青子は納得した様に頷くと、少し声のボリュームを上げて言った。

「快斗は大丈夫?ケガしてない?」
『それが・・・。』
快斗はそう言いながら指先で頬を掻き、銀三を守る為、マオに胸を拳銃で撃たれて負傷した事情を説明した。
それを告げた直後、青子は数瞬何も言えないまま黙り込んでしまった。

『もう、無茶するんだから。』
しばらくの間をおいて青子がポツリとそう零した。
「うん、ゴメン。」
快斗はもう一度そう口にすると、スマートフォンを耳許にあてたまま天井を仰ぐ。

「だって、オレのせいで警部が撃たれて・・・。青子にあんな顔、二度とさせたくなかったから。」
快斗はそう言いながら、函館の事件の際に、撃たれてベッドで横に眠る銀三をガラス越しに見て涙を流していた青子の顔を思い出していた。
『あんな顔・・・って。もしかして、北海道でお父さんが撃たれた時の事?』
「ああ。」
応えた快斗に青子が問いかける。

『でもあの時青子は快斗に会ってない・・・。』
言い掛けた青子が少しの間をあけて、ハッと思いついた様に言った。
『快斗、もしかして、お父さんの病室の前にいた?刑事さんの恰好して。』
「ああ。」
応えた快斗は息を吐いた。

「警部が心配だったし、青子も・・・。だけど、オレは顔を出せる状況じゃなかったから。警察の制服借りてしばらく青子の後ろに立ってたよ。それで、警部の意識が戻ったところで、ちょっとだけ安心して。その場を離れた。」
『やっぱり。だって、青子が戻ってきたら、ずっとそこに立ってたはずのお巡りさんがいなくなってたんだもん。』
青子はそう言うと、また泣いているのか、涙混じりの声で言った。

『言えないだろうけど。でも、ちゃんと言ってよ、バカ。』
「うん。」

今の青子にはわかっている。
その時の快斗には青子に伝える事が出来なかった事。
その胸の裡にある想い。

それでもそう、言わずにいられなかった青子の言葉を思いながら快斗は応えた。

「青子。」
呼び掛けると快斗は言った。

「たぶん今、世界の存亡の危機っていう状況に直面してて、名探偵もルルーシュ達もその為に戦ってる。」
『快斗・・・。』
呼びかけた青子に快斗はもう一度息を吐いた。

「でも、名探偵に言ったら怒られるかもしれないけど。オレはそんな世界の危機っていうよりも。青子と警部と。それからみんながいる世界が好きだから。そんな自分の大切な世界を守りたいって、思ってる。」
快斗の言葉に青子が涙混じりの声でフフフッと笑みを浮かべる。
『うん、快斗らしいね。』
「だよな。名探偵に言ったら怒鳴られるかな?」
「ううん。」
苦笑した快斗に青子が応える。
『きっとコナン君は、快斗はそれでいいって笑ってくれると思うよ。』
「そうかな。」
『うん。』
柔らかい声で応えた青子に、快斗はもう一度目を細め天井を仰いだ。

「オレはヒーローじゃないから。そんな大層な大義名分の為っていってもピンとこないんだ。ただ、大事なみんなといられる世界を守りたいって。それだけは失(な)くしたくないって、思うから。」
快斗の言葉に青子がもう一度頷く。
『快斗は・・・それでいいと思うよ。』
「うん、サンキュー。」
応えた快斗は微笑を浮かべると立ち上がった。

「それじゃ、行ってくるから。」
『うん、快斗。気をつけてね。それから、必ず帰って来てね。』
青子の言葉に快斗は深く頷く。

「うん、必ず帰るよ。青子のところに。」
『うん、待ってるよ。』
その言葉を胸に抱く様に快斗は瞼を伏せて頷く。

「それじゃ、また後で。」
『うん。』
応えた青子が電話を切ると、快斗はスマートフォンを銀三に返す為差し出した。

「警部、ありがと。」
『ああ。』
受け取ったスマートフォンを胸許に入れながら銀三が笑みを浮かべる。

「それじゃ、そろそろ名探偵達が到着する頃だろうから。迎えに行こう、警部。」
「そうだな。」
銀三は応えると、快斗の様子を見つつ立ち上がった。

本人の言う通り、大丈夫そうだ・・・と。
心の中で判断すると、その場から動き出し出口の扉を開いた。

快斗も警官の制服を着たまま、銀三の後ろについて部屋から出ると廊下を歩き始める。

「スザク、大丈夫かな?」
快斗は小さな声で呟きながらも、あえてまっすぐ屋上へと向かった。

さきほどのルルーシュの言葉から、ルルーシュに何か考えがある事は読み取れた。
だとすると、自分達が再び出向いて、スザクの戦いの足手まといになるより、ルルーシュの策にスザクの身をゆだねた方が良いと判断したからだ。

(スザク、無事でいてくれよ。)
快斗は掌を強く握り締めたまま心の中でそう強く願う。

そうして、今も一人で戦うスザクに想いを馳せていた。