快斗がダイニングに入ると、乗客がその場に全員集まっていた。
おそらく快斗が出ていく際にガラスを割って出ていった事から、安全性を考慮して全員ダイニングに移されたのだろう。

調理場からは食欲を誘う良い匂いも漂っているので、きっとこの場で全員に食事がふるまわれるに違いない。
少なくとも、ここにいる人達は笑顔で歓談して三ツ星レストランの味といわれる料理を楽しみに心待ちにしている様に見える。
ここには笑顔が溢れている。

きっと、先ほどのキッドと次郎吉の一件も、ここに来ていた招待客にとっては、ショーの一幕の様に感じたのではないかと快斗は思った。
(とりあえず、けが人もなさそうで良かった。)
快斗はそう思いながら胸をほっとなでおろす。

そして、その中に青子の姿を見つけるとすぐさま駆け寄った。

「青子!!」
「えっ???」
青子は立ち上がると、すぐに快斗に駆け寄り、間近に快斗を見つめた。

「本物?」
「当然。」
口許を上げて笑う快斗に青子はわずかに瞳を涙で潤ませると、手を伸ばして快斗の掌を握った。

「大丈夫だった?怪我はない?」
「ああ、大丈夫。」
答えた快斗に青子はほっと息を吐いて微笑む。

「良かった。」
「青子も、大丈夫か?」
問いかけた快斗に青子は頷く。
「うん。大丈夫。今から夕食だからここで蘭ちゃん達を待ってたの。」
「そうか。それで・・・名探偵は?」
その問いに青子が快斗の耳許に顔を寄せる。

「具合が悪いから部屋に戻るって。」
「そうか。やっぱり・・・。」
そう言うと快斗は青子を見つめて言った。

「青子、夕食が終わったらスカイデッキに来てくれないか?」
「スカイデッキって、宝石が展示されてるところ?」
たずねた青子に快斗が頷く。

「あんな石ころよりも、もっと良いもの見せてやるから。」
そう言うと、快斗は踵を返し、右手を上げた。

「また後でな。」
「うん。」
応えた青子に頷くと、快斗はその場から再び走り始めた。
[newpage]
「名探偵!!」
個室に駆け込むと、快斗は奥の寝室の扉を開けた。
そこには、ベッドの中で掛け布団を頭からかぶりながら、苦しそうに唸り声をあげる新一の姿があった。

「その声・・・うあっ、戻って来たのか?」
「ああ。それより、大丈夫か?名探偵。」
たずねた快斗に新一が顔を上げると、苦笑いを浮かべ応える。

「大丈夫・・・とは言えねぇけど。いつもの事だよ。」
「名探偵・・・。」
呼びかけた快斗は切なげに瞳を伏せると新一の腕を握った。

「ここにいるから。それで、いつかお前の体を小さくした薬をオレが組織から盗ってくるよ。それで、哀ちゃんに完璧な解毒剤をつくってもらうから。」
「バーロー。だから、余計な事するなっていってんだろ?」
苦しそうにうめき声をあげながら新一がは言った。

「ただでさえ、こうやってお前が組織に狙われてるってのに。オメーにそんな事させられるかって。」
そう話している間も、新一は胸を押さえながら、絶え間なくうめき声を漏らす。

「だって、そうでもしないと、お前が元の姿に戻れないだろ?そうしたら蘭ちゃんだってずっと・・・。」
「だからって、オメーがいなくなったら彼女はどうすんだ。彼女があの組織に狙われて万が一殺されでもしたら、オメー生きていけねぇだろ?」
「それは・・・。」
図星を吐かれて顔を伏せる快斗に、新一が口許を上げる。

「大丈夫だよ。オメーが言ってたろ?俺はいつか必ずあの組織を壊滅させて、薬を手に入れ、蘭の元に戻る。何より、俺は絶対に蘭の元に戻るんだって言ったのはオメーだぜ。忘れたのか?」
「忘れてねぇけど。だからって、こんな何度も苦しそうにしてる名探偵を黙ってみてられるかって。」
応えた快斗に新一がフッと息を吐いた。

「たくっ・・・。オメーは本当相変わらず変わらねぇんだから、そういうとこだけは。」
「名探偵・・・。」
「大丈夫だ。いつもの・・・慣れてる・・・。」
言いかけては叫び声をあげる新一に快斗は唇を噛みしめる。

新一は再び布団の中深くに潜り込んだ。
そんな自分の姿を見られるのが嫌だったのだろう。
それからしばらくすると、今までこの世の終わりかと思うほど苦しそうな声を上げていた新一の声がのピタリと声が止むと、快斗はそっと布団の中を覗きこむ。

「名探偵。大丈夫か?」
静かに問いかけた。
そして、その顔を見てハッと大きく目を瞠った。

そこには、その大人から子供へ強引に質量が変わるという不可思議な現象に体が耐えきれなかったのだろう。
気をを失ったように目を瞑り、微かに寝息を立てるコナンの姿があった。

快斗は布団を肩の高さに合わせると、コナンの頭に手を伸ばした。
そして、サラリと滑らかな髪を撫でる。

「名探偵。それでもオレは・・・。」
言いかけると快斗は唇を噛みしめて立ち上がった。
それから、枕元にコナンの着替えを用意して、寝室の扉を閉める。

「ゆっくり休めよ。」
閉じた扉に向かって快斗はそう言うと、数瞬瞼を伏せた後、クローゼットの扉を開いた。、

そこには、あらかじめ準備しておいた、先ほどまで新一が快斗の変装中に来ていた服とまったく同じ服が掛かっている。
快斗はクローゼットからそれを取り出し袖を通すと、鏡の前で髪の毛の跳ね具合など、先ほどの新一と違和感がないか念入りにチェックをした。

そして、部屋の外に出ると歩き始める。
青子と約束の場所へと向かって。