「新一・・・。」
呼びかけた蘭に新一が顔を上げた。

「ゴメン、忙しかったよね。また何か事件なんでしょ?」
そう言って蘭が踵を返し足早に部屋を出ていこうとする。

「蘭、待てって!!」
新一は急いで立ち上がると蘭の腕を掴んだ。
「まだ・・・何も言ってねぇだろ?」
「でも・・・。」
言いかけた蘭の腕を引き寄せると、新一は蘭の背中に手を伸ばした。
蘭はそんな新一の顔を見上げる。

「新一・・・。」
「なんだよ?」
「ちょっとゴメンね。」
そう言うと蘭は新一の頬を横に引いた。
その瞬間新一が顔を歪めて、蘭が指を離した後で赤くなった頬をさする。

「いてぇって!!オメーは!!いきなり何すんだよ。中森警部じゃねぇんだから!!」
「だって、今の新一黒羽君とおんなじ顔してるんだもん。」
その言葉に新一が溜息を吐く。
「だから、あいつに聞いてねぇか?今日だけはちょっと理由があって、俺があいつに変装してるんだって。」
「うん、聞いたよ。でも、キッドは変装する時マスクしてたりするけど、新一はそういうマスクをしなくても黒羽君になれるの?」
「ああ。」
応えると新一は蘭を腕に抱いたまま言った。

「なんでか知らねぇけど。顔立ちも体格もほぼ同じだから、あとは髪をカーリングアイロンで癖つけて。話し方とか声の出し方とか調節すれば、やってやれない事はないってとこだな。」
「そうなんだ。」
頷いた蘭に新一が笑みを浮かべる。
「実際さっきオメーはVIP用の待合室でずっと俺が隣にいるのに気づかなかったろ?」
「うん。だから・・・どうして黒羽君が青子ちゃんじゃなくて私の隣にいるんだろうって思ってたの。それに、搭乗デッキに来る時もずっと私と手を繋いでたし。」
不思議そうに首を傾げた蘭の言葉に新一は顔を赤らめて視線を横に逸らす。

「それは・・・。やっぱり、蘭が隣にいるんだから。そばにいたい。ずっと触れていたい・・・って。そう、思っちまうだろ?」
照れたようにそう言うと息を吐いた新一に蘭は大きく目を見開く。

「そうだったの?」
「そうだよ。当然だろ?俺だって・・・。蘭のそばにいたら・・・。」
そう言うと、新一は蘭の頬に手を伸ばした。

「蘭・・・。」
名前を呼ぶと新一は微かに目を細め蘭に顔を寄せる。
「新一・・・。」
「キス・・・してもいいか?」
たずねた新一に蘭が顔を赤らめたまま頷く。
「当然でしょ。だって、私達・・・恋人同士、なんでしょ?」
「そうだな。」
応えた蘭に新一は頷くと、瞼を閉じて蘭に口づけをした。
そうして蘭の唇に新一の唇が静かに重なる。

伝わってくる。
初めて感じるぬくもりに。
蘭は唇を重ねたまま、目の前にいる新一の胸許を強く掴んだ。

どこにも行かないで欲しい。
そばにいて。

それは、きっと届かない。
叶わない願いである事はわかっているけど。

それでも。

蘭はやはり。
心からの想いで。

そう心から。
願い続けていた。