「青子、入ってもいいか?」
「うん、いいよ。」
部屋の前でノックをしてたずねたオレに青子は応えると、すぐに内側からドアを開けてくれた。

「どうだ?新しい部屋は。」
部屋の中に入りながらたずねると青子が笑顔で応える。
「うん、すっごく素敵な部屋で。でも青子にはちょっともったないないかなぁ・・・って。」
そう言いながら青子は苦笑して頭をかいた。

「そんな事ないよ。」
応えるとオレは青子の目の前に立って言った。
「ていうか、やっぱりここでも、青子の自由が制限されてる状況は変わらないし、その元凶は、オレなんだから。」
その言葉に頭を振ると、青子はオレの背中に腕を回し、俯きがちに額を胸に押しつけて聞いた。

「快斗、さっき・・・。もう、昨日になっちゃったけど。どうして、聞かせてくれなかったの?快斗の思ってる事。本当の気持ち。」
オレは昨日青子を泣かせる発端となった場面を思い出し顔を伏せると、青子をきつく抱きしめた。

「快斗?」
「青子が・・・欲しかった。」
「えっ・・・?」
その言葉に青子が小首を傾げる。

「青子・・・が?」
「ああ。青子の、心も体も全部欲しい・・・って。オレのモノにしたいって。そう思ったんだ。」
「快斗・・・。」
呼びかけた青子が顔を上げる。
そんな青子を見つめてオレは目を細めた。

「青子にオレのすべてを伝えて。それから、今までよりもっと青子の存在がオレの中で大きく大きく膨らんでいった。」
オレは正直に応えた。
「青子がいないと不安で落ち着かなくて。青子がいると、心の奥底から安心できて。そんな青子を求める気持ちがだんだん抑えられなくなってきて。自分でもわけわからねぇくらいに破裂しそうになってた。」
そう伝えたオレに、青子がやっと、その意味を理解したのか、頬を紅潮させて顔を赤くする。

「快斗・・・。でも、青子はお子様だよ。青子ちゃんみたいに強くないし、紅子ちゃんみたいに美人でもないよ。」
「そんなの、どうでもいいんだよ。」
オレはそう言うと、青子に唇を重ねると、徐々に口づけを深くしていく。

途中、うめくような、少し苦しそうな青子の声が聞こえたけど、オレは青子を手放すことが出来なかった。
しばらく続けていると、青子がドンドン胸を繰り返したたき始めたので、オレは顔を上げて目許を潤ませる青子を見つめる。

「バ快斗。苦しかったよ。」
「ゴメン。」
その言葉にオレは苦笑いを零すと、もう一度青子を胸に抱き寄せて耳元に顔を寄せた。

「でも、オレはもっと苦しかったから。」
「えっ・・・?」
声を上げた青子にオレは首筋に顔をうずめる様にして青子を抱く。

「青子が死んだ・・・って。あの男から聞かされた時。すげぇ苦しかった。」
「快斗・・・。」
切なげに目を細める青子にオレは続けた。

「苦しくて苦しくて。息の仕方も忘れて。でも、青子がいないなら、オレが生きてる意味もないからそれでもいいや・・・って。そう、思うくらいすげぇ苦しかった。」
オレが伝えた言葉に青子が零した涙がゆっくりと頬を伝い落ちる。
「青子がいない世界にオレは生きる事を放棄しようとしてたんだ。」
重ねて告げると、次から次へと青子の涙がぽろぽろととめどなく溢れ出した。

「だから、青子が生きてるとわかった時に、オレは気づいたんだよ。青子がいないとオレはダメなんだって。好き・・・とか。そんな言葉で収まりきらないくらい、青子がオレにとってすげぇ大事で、大切で、必要な存在なんだって。」
「快斗・・・。」
青子は応えると、オレの胸に額を押しつけて顔を伏せた。
そんな青子にオレはもう一度言った。

「青子、オレにこんなこという資格がないのはわかってる。わかってるけど。それでも、我慢できないから正直いうよ。」
「快斗・・・。」
「青子が欲しい。青子の全部。オレに、くれないか?」
その問いに、青子がオレの背中に回している指先を震わせているのがわかった。

わかってる。
自分がどれだけ身勝手なことを言っているのか。

青子を騙して嘘をつき続けてきて。
そうして流れ着いたこの状況。

青子はここから動けない。
いわば、軟禁状態の中で。

それでもオレは一方的に青子に自分の想いを押しつけてる。
最後に痛みを負うのは青子だって、わかってるのに。

「青子・・・。」
名前を呼んだオレに青子は胸に顔を押しつけたまま掠れそうな声で言った。
「快斗。青子も・・・。」
その言葉にオレは大きく目を見開く。
そんなオレをゆっくりと青子が見上げる。

「いいのかな?快斗が欲しい・・・って。こんな青子がいって。」
「アホ子。」
応えるとオレは青子の頭を抱える様に抱きしめる。

「あたりまえだろ?っていうか。オレ、生まれてから今まで、青子以外の誰かを欲しいって思った事ないからな。」
「ホント?快斗もてるのに?」
小首を傾げる青子にオレは苦笑を漏らすと、青子の頬に手を伸ばし唇を重ねた。

「そんなの、関係ねぇんだよ。」
「快斗・・・。」
「だって、オレの中には青子しかいねぇんだから。」
オレは微笑して伝えると、青子の顔を覗き込んだ。

「本当に、いいんだな。ストップって言ったって、たぶんやめられねぇぞ。」
そう問いかけたオレに青子が真剣な表情で頷く。
「うん。わかってる。」
「そっか。」
応えると、オレは青子をその場で横抱きにして抱き上げると、部屋の電気を消してベッドの上に青子を下ろした。

「暗くても平気か?」
「うん。恥ずかしいから。暗い方がいい。」
「わかった。」
応えた青子にオレは上に上がり、ゆっくりと青子と体を重ねると、青子の唇に口づけをした。

最初はゆっくりと。
それから、隙間から舌をすべり込ませて。
口づけを深くして。

それから・・・。
シャツのボタンに手を掛けていくと同時に、青子の首すじに舌を添わせる。

暗闇の中で響く青子の声が愛しくて。
何度も何度もその声が聞きたくて。

オレは夢中になって青子を求めて。

そうして、最後には、心も体も重ねたオレ達は、
その夜、初めて一つになったんだ。

「青子、愛してる。」
最後に青子を胸に抱いたまま、そう青子に伝えたオレは。

今の状況全部ひっくるめても、そんな自分が幸せだって思った。

オレはその夜を絶対に。
一生忘れない。

心から。
そう、思ったんだ。