祝福 19 | 向日葵の宝箱

向日葵の宝箱

まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

「だめ。この青子を傷つけたら絶対にダメだよ。」
青子ちゃんは立ち上がると、青子を守る様に両手を広げて、あの人の目の前に立った。

そんな青子ちゃんを嘲るかの様に、あの人は口許に手をあててクスリと笑う。

「まさか君まで来てるとはね。」
そう言って青子ちゃんに向かい右手を差し出す。
「異世界よりようこそ。中森青子さん。」
その言葉に、青子ちゃんは少しもひるむ事もたじろぐ事もなく、差し出された手を取る事もせず、まっすぐあの人を見つめた。

青子はやっぱりその人がこわいと思う。

だって、顔は笑ってるけど、目は少しも笑ってない。
感情が読み取れない。
冷たいからっぽの目。
そんなあの人に、青子ちゃんは言った。

「ギュンター君、だよね。」
呼びかけた青子ちゃんに、その人が初めて仮面の様にはりつけた笑顔をわずかに目許を上げて変化させた。
「違うよ。僕はスパイダー。後ろの彼女を組織の長に命じられて殺しに来た人間だ。」
「それは嘘だよ。」
青子ちゃんははっきりとそう言った。
その言葉に、スパイダーと自ら名乗ったあの人が視線を鋭くする。

「嘘じゃないよ。この前は彼を殺し損ねた。だから今度は彼がもっと苦しむ手段を組織の長(おさ)が僕に命じた。だから僕はそれを実行しに来ただけだ。」
青子は目の前で語られる自分の処刑宣告とも呼べる話に体を震わせる事しか出来なかった。

その時。

回転扉の向こうでバリンッとガラスが割れる音がした。
その直後、ガタンッという音と共に、力強く歩く足音と共に二つの声が重なる。

「青子!!」
呼びかけると、二人の快斗が部屋の中に入ってきて、一人は青子ちゃんの目の前に立ち、青子ちゃんを守るように白いマントを大きく広げた。
そして、スパイダーというあの人を鋭く見据える。

それから、もう一人の快斗は青子に駆け寄ると・・・。

「青子・・・。」
呼びかけた後、青子に手を伸ばし、体ごと強く抱きしめた。
「何やってんだよ、突然いなくなったりして。」
その言葉に青子はやっぱり目の端に涙が浮かんで、快斗の胸に顔を押しつけた。
「ゴメン・・・なさい。」
それしか言えずにいる青子を快斗がギューッと抱きしめる。

そんな青子達を振り返り、顔を見合わせた青子ちゃんともう一人の快斗再び前見据え、あの人に言った。
「それじゃあ、なんで彼女をすぐに殺さなかった?組織のボスに命じられてたんだろ?」
「なんの話?」
笑って胸の前に手を上げたあの人に、もう一人の快斗が青子ちゃんの方を向いていった。

「青子とお前の今までの会話は聞いてたよ。青子にお前がこの場所に現れたら通信機の電源をオンにする様に伝えてたから。」
「そう、君の得意な盗聴か。それで?」
一見楽し気に見える表情で問いかけたあの人に目の前に立つ快斗が告げた。

「ギュンター・フォン・ゴールドバーグ・二世、お前の本名だ。そして、お前の特技は人の心を読む事と、幻覚で相手を惑わせる事。他人の記憶を消したり書き換えたり・・・が特に得意技。」
その言葉に、その人はフッと息を吐くと、ぞっとするくらい凍りつく様な氷の微笑を浮かべる。

「お前がオレに言ったんだぜ?二つの世界に共通して存在するのはオレ達だけじゃない。だとしたら、ギュンター、お前もヨハネスもこの世界には存在している。そういう事だろ?」
「恐れ多くもあの方の名前をそんなに軽々しく口にするな!!!」
そう叫ぶと、あの人は胸ポケットから拳銃を取り出し胸の前に構えた。
そして、かちゃりと音が響いた。
安全ロックが下ろされた音だ。

「それじゃあ君にはもう一つ大事な事を伝えたのを覚えてるよね。」
「ああ。オレがこっちの世界に干渉してくるようなら容赦はしねぇ・・・って、あれだろ?」
フッと息を吐い、口許を上げる快斗にその人は銃の照準を合わせた。

「だが、君の弱点も後ろの彼と同じ・・・。」
そう呟いた瞬間、照準が微妙に向きを変え、銃口の先が青子ちゃんへと向けられる。
「中森青子さん、恨むなら隣の彼を恨んでね。」
笑い声をあげると同時に引き金が引かれようとしたその瞬間、その人の後ろのパネルがバンッ!!!という大きな音と共に倒れこんできて、パネルの目の前にいたあの人を押し倒した。
その直前、青子ちゃんの手を引いて大きく後ろに飛ぶと、青子達にも「下がれ!!」」と声を掛けてきた快斗に頷き、快斗も青子を抱えて後ろに飛んだ。

その直後、小さな影が全開になった隠し部屋の入り口から入ってきた。
「遅いぜ、名探偵。」
「うっせーよ。ああしろ、こうしろって人に指図だけしといて。」
そう言うと、コナン君は、青子ちゃんの隣に立つ快斗の方に向かって歩いて行った。

「絶対的に言葉がが足りねぇんだ、お前は!!頼みごとがあんならもっとちゃんと説明しろよ。」
「それを予測して先回りして動くのが探偵だろ!?」
その会話に青子と快斗は顔を見合わせる。

「それで、名探偵。その今親父のパネルで踏んづけてるやつ、どうすんだ?」
「そりゃ、決まってんだろ?」
コナン君はそう言うと、パネルがぶつかった衝撃で気絶してるその人に、左手の時計のガラスを立てて照準を合わせた。
すぐにシュッと小さな音がすると、その人はスースーと寝息を立てて眠り始めた。

「キッド。」
呼びかけたコナン君は、後ろに立つもう一人の快斗に呼びかける。
「ああ。」
応えた快斗が、倒れていたパネルを持ち上げると、懐から出したワイヤー銃でその人の体を縛り拘束した。

「いっちょあがり!!お疲れさん!!」
そう楽しそうに笑う快斗に、青子と快斗はもう一度顔を見合わせると思わず笑ってしまった。

「でも、どうして突然パネルが倒れてきたの?」
問いかけてきた青子に快斗が応える。
「名探偵がパネルごと、あの殺人シューズでサッカーボールで蹴り倒して、あいつを吹き飛ばしたんだよ。」
「そういう事。まあ、青子達が中にいるから、花火ボールは遠慮してくれたみたいだけどな。」
苦笑いするもう一人の快斗がコナン君の目の前で腰をかがめて右手を差し出す。

「それじゃ、遅くなったけど。オレ黒羽快斗、よろしくな。こっちの世界の名探偵。」
「ああ。よろしく。それで、いろいろ詳しく話を聞かせてもらいてぇんだけど。場所を変えねぇか?」
そうたずねたコナン君に、快斗は溜息を吐いた。

「そうしたいところはやまやまなんだけど。オレと青子はあと一時間で元の世界に戻らなきゃならねぇんだ。」
「制限時間があるのか?」
問いかけた快斗に快斗が応える。

「ああ。お前がこっちに来た時は制限時間24時間、こっちの紅子がお前をオレ達の世界に送った。それで、オレはオレ達の世界にいる紅子に今回オレと青子を二人でこっちに送ってもらった。」
「もしかして、二人で来たから制限時間は24わる2の12時間・・・とか?」
「ご名答。」
たずねた快斗に苦笑して応えると、もう一人の快斗は言った。

「それで、なんでお前は今回こっちに来たんだ?」
問いかけたコナン君に快斗が応える。

「こっちの紅子に頼んどいたんだよ。もしこいつになんかあった時は教えてくれって。そんで、その時は力を貸してくれってな。」
「それで、今回紅子ちゃんが教えてくれたの。今回快斗が動かなければ、こっちの世界にいる青子も快斗も最悪の結末が待っている・・・って。」
青子ちゃんのその言葉に青子の隣にいる快斗がわずかに顔を伏せた。

「確かに・・・。」
掠れた声で呟いた快斗の手を青子は強く握った。

そんな快斗を見やると、もう一人の快斗が大きく息を吐いた。
「まあ、そんなわけで。だから時間がないんだ。用件を先に伝えとくぜ。」
快斗はそう言うと、ポケットから一枚のメモを取り出して、コナン君に渡した。

「西多摩市の山奥に、キッドの隠しアジトがあるんだ。そこは、親父しか知らなかったところだから、組織に見つかる可能性は低い。今いるあの家は既に組織にバレてマークされてる可能性が高い。だから、名探偵、青子とあいつをここに連れて行ってくれないか。」
「お前・・・。でも、そっちにあるからって、こっちもあるとは限らねぇだろ?」
「まあな。でも、この二つの可能性は人間同士の関係性とか。共通点は多い。ていうよりも、オレは他にも過去とか未来とか異世界とかいろいろ飛ばされたりしてるからわかるけど。オレはどこにいってもキッドだし、どこにいっても青子を追いかけてる。だから、そのアジトも共通して存在している可能性は高いと思う。」
「わかった。」
頷いたコナン君はメモをポケットにしまって顔を上げた。

「こいつはどうする?」
そう言って、コナン君は足元で眠るあの人を指さした。
「それは名探偵の判断に任せるぜ。ただ、催眠術に近い魔力を持つやつだから、警察に連れて行ってもすぐに自力で脱獄してくるかも。まあ、味方につける事が出来れば、かなり頼りになるんだけど。それが出来るかどうかはオレにはわからねぇから。」
「そうか。」
応えたコナン君に快斗が頷く。

「それと・・・。」
快斗はそう言うと、青子の隣にいる快斗に呼びかけた。
「どうした?」
応えた快斗の顔を見つめた後、フッと息を吐いて頭を振った。

「なんだ?」
「いや、何でもない。それじゃ、話はこれで以上だ。タイムリミットも迫ってるし・・・。」
快斗がそう言った瞬間、扉の外側。
つまり、快斗の部屋の中で、ガラスの様なものがパリンッと割れる音がした。

「今のは・・・デスクのスタンドライトが割れた音だ。」
「こいつが戻ってこないから、しびれを切らしてスナイパーに離れた場所からこの中を狙わせてるんだろうな。」
もう一人の快斗が頷くと、快斗は、今も眠り続けるあの人をじっと見つめた後、背中に抱えた。

「青子、絶対にオレから離れるなよ。それから、名探偵。そっちから出るのは危ないから、隠し通路で外に出る。ついてきてくれ。」
快斗はそう言うと、もう一人の快斗の方を向いて言った。

「お前は・・・。」
「大丈夫。時間ギリギリまでここで食い止めて、後はオレ達の世界に戻されるから。」
「そっか。」
応えた快斗がもう一人の快斗の顔を見上げて言った。

「また、会えるか?」
「もちろん。」
その言葉に快斗は深く頷くと、そのまま踵を返した。

「ぜってぇだからな。」
「ああ。」
応えたもう一人の快斗に快斗は頷くと、その場から歩き始めた。

「それじゃ、この場は任せるぜ。」
「了解。」
二人はそう言って別れたんだ。

それはあえて。
『さよなら』を言わない様、意識しているみたいに。

青子には、思えたんだ。